トランプ米大統領、やっぱり駆け引きがお好きなようです。
セッションズ司法長官は5日、幼少期に親に連れられて米国へ不法入国した者に対し、2年間にわたって強制送還に猶予を与え更新可能な法的措置(Deferred Action for Childhood Arrivals) を議会が対応しなければ6ヵ月後に撤廃すると発表しました。トランプ米大統領の意を汲んだのは、ご案内の通りです。米大統領選から、”ドリーマー”(Development, Relief and Education for Alien Minors、廃案になった救済案の名称からきたDACA対象の人々を表す)選挙公約に挙げていたのですが、米大統領例令に頼りませんでした。猶予期間を6ヵ月とし、2018年3月6日の失効予定までに存続させるか別の手段を提供するのかDACAの運命を決めるよう、議会に迫った格好です。
トランプ米大統領のオバマ政策巻き戻しに、この方がフェイスブックで対抗。さすがにツイッターは控えました。
(出所:Facebook)
9月5日の休会明けにぶつけてきた理由として、債務上限引き上げや予算協議に向けたメッセージが考えられます。医療保険制度改革(オバマケア)撤廃・代替案移行が失敗し面子を潰されたトランプ米大統領、政府機関の閉鎖を恐れないと豪語したものの、当時は共和党の支持率が過去最低を更新していましたよね。当時は民主党のオバマ氏が米大統領でしたから敵失で済みました。ところが今、政権と上下院を握っているのは共和党です。トランプ米大統領が無傷で済むとは思えません。
DACAは2012年8月に成立、ドリーマーは約80万人に及びます。
(作成:My Big Apple NY via Citizenship and Immigration Service)
そこで、DACAに着目したのではないでしょうか。足元、米国ではハリケーン”ハービー”に加え、カテゴリー5(瞬間風速70m)とモンスター級のハリケーン”イルマ”がフロリダ州へ接近中であり、被災者にとって災害救済基金の引き上げは議会の最優先事項に違いありません。上下院議員の一角は債務上限引き上げと抱き合わせる意思を表明済みで、恐らく合意に漕ぎ着けるでしょう。その後に、DACAで合意案を取り付ける時間を確保しなければならないなら、尚更です。トランプ米大統領にとっては、自身の代で米国史上初の債務不履行(デフォルト)という汚点を回避できるメリットがあります。
税制改革の成立が遅れる口実を作る必要も、あったのかもしれません。今のところ、法人税率で15%や23%以下といった数字が出てくる程度で、具体案は聞こえてきませんから。さらに付け加えるなら、DACAの法制化に失敗したとしても、オバマケア撤廃・代替案以降の頓挫と合わせ議会の責任であって米大統領の自分にはないと主張することも可能です。
民主党だけでなく共和党からも忌み嫌われるトランプ米大統領ですから、共和党と民主党がDACAの代替案を放り出すリスクが残ります。しかし、2018年11月6日には中間選挙を控えていますよね。移民反対派の票を確保するにはDACAが終了するに任せる方が良いのでしょうが、ドリーマーを最も抱えるカリフォルニア州(22.3万人)、2位のテキサス州(12.1万人)などに拠点を置く企業を中心にロビー活動を行うこと必至。既にアップルやマイクロソフトなど、DACA終了反対の意思を表明していますよね。議会もこうした動きを無視できないでしょう。
以上、筆者の妄想でした。トランプ米大統領の性格を考えると、希望的観測過ぎますかね・・。
(カバー写真:Harrie van Veen/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年9月6日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。