水爆実験で「白頭山」噴火の危険は?

長谷川 良

ウィ―ンに暫定事務局を構える包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)の国際監視システム(IMS)によれば、世界100カ所以上の地震観測所が3日の北朝鮮の第6回目の核実験で発生した地震を観測したという。アルプスの小国オーストリアの地震観測所も4日、地震をキャッチしたと報じている。

北の今回の核実験が過去5回の核実験の爆発規模を大きく凌ぐもので、小野寺五典防衛相は6日、爆発規模を「160キロトン、広島に投下された原爆の10・7倍、長崎の7・6倍に相当する」と明らかにしている。

▲「白頭山」(ウィキぺディアから)

北が核実験を実施した当日、地震計は2回、大きく揺れた。地震が2回発生していることから、「北は核実験を2回行ったのではないか」という臆測が流れたが、韓国気象庁はその直後、それを否定した。

同気象庁の説明によれば、「3日午後0時30分ごろ、北の咸鏡北道吉州郡豊渓里にある核実験場で人工地震を感知。その約8分後に2度目の地震が発生し、マグニチュード(M)4.4だった」という。

実際は、核実験場から南東約7キロ付近で地盤が陥没し、それに伴う揺れが発生したという。水爆の爆発によって周辺の地盤が揺れ、地震が発生したという説明だ。実際、アメリカの北朝鮮分析サイト「38ノース」は5日、核実験場周辺の地形が崩れ、地形の変動が見られると報告している。

韓国の聯合ニュースは5日、「北の核実験場がある北東部の咸鏡北道吉州郡で被爆した疑いが持たれる症状を訴える人が出ている」と報じた。核実験場周辺の住民への被爆は考えられるが、当方は別の恐ろしいシナリオを考えている。中国と北朝鮮の国境に位置する白頭山(標高約2744m)の噴火だ。北の今回の水爆実験で一番懸念されることは、白頭山の噴火を誘発するのではないか、という点だ(「白頭山の噴火と第3回核実験」2011年3月11日参考)。

白頭山の噴火の可能性は韓国や中国の地震専門家が予測してきたことだ。韓国側はその対策も検討している。白頭山が噴火した場合、北朝鮮が大被害を受けるだけではなく、韓国、日本、中国など周辺国家にも火山灰が降り、同地域の飛行が不可能となる。核爆発を凌ぐエネルギーが外部に流出するため、コンピューター関連機材が使用できなくなる可能性も出てくる。

問題は、白頭山の地盤と核実験が予定されている咸鏡北道豊渓里周辺の地盤の繋がりだ。両者は直線で70kmぐらいしか離れていない。地震専門家に聞かないと分らないが、核実験が白頭山の地盤に何らかの影響を及ぼし、大噴火を誘発する危険性が出てくるのではないか。

欧州では2010年、アイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル氷河にある火山が噴火し、大量の火山灰の影響から欧州航空会社は飛行中止に追い込まれるという事態が発生した。白頭山が噴火すれば、それを凌ぐ被害が周辺地域で生じると予測されている。

ちなみに、白頭山は北朝鮮では金正日労働党総書記が誕生した地として聖地となっている(金総書記は実際は白頭山の地では生まれていない)。白頭山の噴火は北の金王朝の伝説を破壊するだけではなく、朝鮮半島にこれまでなかった被害をもたらすことになる。

なお、聯合ニュースによると、「豊渓里の核実験場は標高2200mの万塔山にあって、坑道は全て開発され、1番坑道は1回目の核実験後に閉鎖。2番坑道で2回目から6回目の核実験が実施され、現在、3、4番坑道が準備されている」という。

最後に、白頭山が噴火した場合のケースをまとめる。

大量の火山灰が放出されるから、多くの農産物の被害が出るばかりか、数カ月間は朝鮮半島周辺の飛行は出来なくなる。北は核兵器や弾道ミサイルの実験はもちろんできない。コンピューターが電磁波で破壊されるからだ。すなわち、白頭山が爆発した瞬間、北朝鮮は大量破壊兵器を使用できない無防備状況に陥るわけだ。

トランプ米大統領は北に軍事介入するか否かで悩む必要はなくなる一方、北の国民は避難し、食糧を求めて韓国や中国の国境に殺到するだろう。北側は彼らを止めることはできない。このようにして3代続いた金王朝は白頭山が噴火した日を期して自然消滅することになる。

白頭山の噴火時期は金正恩氏(労働党委員長)もトランプ氏も事前に予想できないし、防止できない。「天災は忘れた頃に来る」と警告した寺田寅彦の言葉を思い出す。金正恩氏は核実験をこれ以上繰り返すべきではない。さもなければ、「地球レベルの惨事が生じる危険性が出てくる」(プーチン・ロシア大統領)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。