日本的経営を「民営化」するMBOのすすめ

池田 信夫

※本稿はM&Aオンラインで9月9日に掲載されたものです。

緊急提言! 日本的経営を「民営化」するMBOのすすめ

アベノミクスはインフレ率ゼロで立ち往生し、これを批判する人も与野党に増えてきたが、安倍政権の根本的な勘違いに気づいていない。それは日本経済を成長させるために必要なのは、銀行の融資ではなく資本市場の投資だということである。日銀が500兆円以上のマネタリーベースを出して大幅に資金過剰になっても、リスクマネーは足りない。日本のM&A取引はGDPの2.5%程度で、先進国で最低だ。

日本の大企業がだめになったのは資金が足りないからではなく、東芝のように多角経営で非効率的な「コングロマリット」になったからだ。1980年ごろのアメリカ企業でも多角経営で経営者がキャッシュフローを浪費するエージェンシー問題が深刻化し、それを投資ファンドが買収して無駄な部門を売却する公開企業の民営化(privatization)が始まった。

企業の民営化という日本語は変だが、これはLBO(leveraged buyout)などによって上場企業を「非公開企業」にすることだ。多くの個人株主が株式を所有している上場企業では、株主が経営者の意思決定にただ乗りする一方、経営者は資本効率を無視して雇用を維持し、規模を拡大する「帝国建設」的な事業拡大に走りやすい。

これを防ぐには所有と経営の分離を逆転させ、経営陣が自分の会社を買収することが望ましい。それがMBO(management buyout)である。アメリカでも派手に報道された敵対的買収は実際には少なく、成功例はさらに少ない。有名なファンドKKRの買収も、ほとんどがMBOを仲介して資金提供するものだ。

MBOで経営者は「独裁者」になり、資金は100%借金になる。株式は返済しなくてもいいので価値がゼロになるまで浪費できるが、借金は返済できないと倒産するので経営者のインセンティブが強まり、企業をコントロールする債権者(ファンド)と一致するのがMBOの長所だ。

経営者は収益率が金利より低いと借金が返せなくなるので、利益を最大化する。投資ファンドは経営の細かいことを知らなくても、決算のボトムラインを見て赤字部門は売却すればよい。不確実性の大きい成長期の企業には向いていないが、成熟企業がリストラするには借金漬けにしたほうがいいのだ。

日本の企業は「労使共同体」なので、M&Aをきらうことが多い。これを合理化するには、経営者が自分の会社を「民営化」するMBOが有効な手段である。最近では、今年2月に上場廃止したアデランスが有名だ。日本ではまだ東芝のように上場廃止というとネガティブなイメージが強いが、これは経営改革のチャンスである。


編集部より:この記事はM&Aオンライン 2017年9月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。