アップル、iPhone Xの発売と東芝メモリへの出資の相似形

竹内 健

アップルからiPhone Xの発売が発表されました。前の機種との違いは、有機ELを使った全画面ディスプレイ、無線給電、顔認証のよるロック解除やモバイルSuica搭載など。

どうやら顔認証などのために機械学習専用のLSI(AIアクセラレータ)が搭載されたようなのが、興味深いです。Siriもローカル(iPhone)で音声認識するのですかね。iPhone Xの登場によって、端末がAIなどの高度な処理を行う、本格的なエッジコンピューティングの時代の幕開け、となるのかもしれません。

さて、アップルがiPhoneの商売では、フラッシュメモリを高く売ることで利益を上げているというブログを4年前に書きました。

iPhoneではアップルはフラッシュメモリを10倍高く売って儲けている

今回新発売になった、iPhone X、iPhone 8S、iPhone 8のフラッシュメモリは64ギガバイト、256ギガバイトと2種類のモデルがあります。

2つのモデルではフラッシュメモリ以外には(ほとんど)何も変えてないと思いますので、iPhoneの256ギガモデルと64ギガモデルの価格差は、(差分の)192ギガバイト・フラッシュメモリの価格になるわけです。

4年前のブログでは、iPhone5Sの価格から、一般では1千円程度の16ギガバイトのフラッシュメモリを10倍の価格、1万円程度で売っていると書きました。差分の9千円がそのままアップルの儲けになっていたわけです。

今回発売されたiPhone Xでも価格を調べてみました。

iPhone X 64ギガバイトモデル:121824円(税込み)

iPhone X 256ギガバイトモデル:140184円(税込み)

両者の容量の違い、192ギガバイト(=256-64)のフラッシュメモリを18360円(=140184-121824)でアップルを売っていることになります。

フラッシュメモリの容量の違いによるiPhoneの販売価格の違いは、iPhone X、8S、8のいずれの機種でも同じです。

つまり、どのiPhoneで売っても、大容量のモデルさえ売れれば、フラッシュメモリ分だけでもかなり儲けることができる。

一方、フラッシュメモリを搭載したSDカードを価格.comで調べると、128ギガバイトで約4500円。192ギガバイトに換算すると、6750円となりました。

つまり、アップルはおおよそ6750円のフラッシュメモリを2.7倍の18360

円で売っていることになります。

普通にフラッシュメモリを売るよりも11610円も高く売っているわけで、これは儲かりますね・・・

4年前のブログには「こんなにお手軽に儲けてしまうビジネスモデルが、いつまで続くんでしょうね」と書きましたが、今でも続いているというわけです。おそるべし、アップル。

さて、アップルがフラッシュメモリで儲けている、というのはiPodの時代からiPhoneやiPadまで長年続いているビジネスモデルですが、以上の計算にはフラッシュメモリの原価の違いは考慮されていません。

アップルにとってみれば、フラッシュメモリベンダからメモリを安く買うほど儲けが増えます。

アップルのフラッシュメモリの購入価格はわかりませんが、大量購買の見返りに安くフラッシュメモリを買っているとすると、アップルのフラッシュメモリによる利益は、上に書いた数字以上かもしれませんね。

アップルの強みとして、iPhoneのデザインや機能が取り沙汰されますが、アップルという企業が利益を高めるには、「いかに安くフラッシュメモリなどの部品を安く調達するか」がビジネス戦略上、極めて重要になります。

ところで今朝は、iPhone Xの発売という華やかな話題の一方、フラッシュメモリ事業を手掛ける東芝メモリについても、ニュースが入って来ました。

東芝“日米韓連合”中核の米投資ファンドと優先交渉で調整へ

相手がある交渉事なので、東芝メモリの売却先については2転、3転しており、まだこれからも買収先が変わるかもしれません。

現段階で有力な売却先の候補である“日米韓連合”にはアップルが入っており、アップルは東芝メモリに3350億円を出資する意向のようです(「日米韓連合が2・4兆円最終提案 巻き返しへ研究開発費も 東芝メモリ売却で」)。

また、やり手のウエスタンデジタル(WD)が東芝メモリの経営を握ることに、アップルが難色を示しているとも報道されています(「半導体売却、アップルがWDによる将来の経営権取得に懸念 最終協議に影響も」)。

過去にWD(あるいはWDが買収したサンディスク?)がアップルへのフラッシュメモリの供給を絞ったり、フラッシュメモリの値上げをしたことに、アップルが反発しているなどと伝えられます。

アップルはアップルでお人好しのはずもなく、フラッシュメモリを大量に購買することを盾に、フラッシュメモリベンダに対してメモリを買い叩いているでしょうから、どっちもどっちなんでしょうが。

東芝メモリを誰が最終的に買収するかはまだわかりませんが、ラッシュメモリを大量に安く確保することがアップルにとっていかに重要か、iPhone Xの値付けを見ても明らかですね。

一方の東芝メモリ。

東芝と東芝メモリの利益が必ずしも一致しないので、中で交渉を頑張っておられる方は大変でしょう。

外野から報道を見ると、もはや東芝の債務超過を何とかする、という目的で東芝メモリを売るというよりは、東芝メモリの将来のために、資金があって自力で経営できる環境に東芝メモリを離脱させる、という方向に向かっているようで良かったです。

交渉事は相手もあるし時間は掛かったのでしょうけど、よくぞここまで来たものですね。


編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2017年9月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。