ジェームズ・ボンド流、組織の理不尽なルールを破壊せよ

写真は書籍画像

最近、予想以上に、毎日忙しくなってきた。今はほぼ毎日タクシー帰り。シャワーを浴びて、死んだように眠ったら、夜明けと共に起床し、すぐさま出社。こんな生活を半年近くほぼ休みなく続けていた。体力には自信のある私であったが、度重なる休日出勤と深夜残業に、さすがに身体が悲鳴を上げ始めていた。

今回、出版した『007に学ぶ仕事術』は、日常の理不尽を取り上げたケーススタディになる。特に組織には暗黙的で明文化できない理不尽が多く存在する。しかし、職務として取組んでいればチャンスが生まれることもある。私たちの働き方の意義について、007を通じて問題提起をすることが本書の狙いでもある。

上司がトラップを用意していた

どの案件も気を抜けず、周囲を見回しても、役に立つ人物はいない。それどころか、問題が発生するたび私に責任転嫁してくる上司の存在。まさに疲労困こん憊ぱい。青息吐息である。そんな状態だというのに、直属の田中部長が「有望な若手を集めて飲み会を開催したい」と私を誘ってきた。私は飲み会が嫌いだ。

今回は時間がないことから断ったのだが、そんな立場を知らない田中部長は「ちょっと仕事ができるからってカッコつけやがって!ん?」と舌打ちをした。その瞬間、私の怒りは沸点を超えた。怒り心頭に発した私は、鋭い目つきで田中部長をにらみ、「少しは仕事をしたらどうですか?」と嫌みたっぷりに言ってやった。

それを聞いた田中部長は、キィーッと猿のような奇声を上げ、目を血走らせると、「覚えてろよ!」と地獄の底から這い上がってきたかのような声で憎しみをあらわにした。そして、地団駄を踏むようにバタバタと廊下を駆けていくと、ものすごい形相をさらしながら、あることないこと私の悪口を吹聴し始めたのである。

1週間後、たまたま目が合った女性社員がビクリと肩を震わせ、慌てて目をそらした。別方向を見やると、その場にいた全員が一斉に私から顔を背けた。昼休みになると全貌が明らかになってきた。田中部長が「あいつはとんでもない!社長の愛人を略奪して、リストカットにまで追い込んだ」とあることないこと吹聴していたのだ。

この噂を払拭するには、どれくらい時間がかかるのだろう。そう思うと、天を仰ぎたくなる。「また、出世が遠のいたな」とつぶやき、言葉にならないため息を吐く。

組織とはえげつないものである

「疲れて眠っているだけだ」「急ぐ必要はない、僕らにはいくらでも時間があるんだから」。「女王陛下の007」のこのシーンはシリーズのなかでも、屈指の悲劇的なシーンのひとつとして記憶されている。亡き妻を抱きかかえて、トレーシーの結婚指輪をみて吐き出す言葉が、冒頭のセリフとなるのである。

妻を失った悲しみに打ちひがれるボンドと、組織の理不尽さを憂うボンドが存在する。自分がボンドであったばかりに妻に悲劇が起きたことを悔恨しているのである。しかし、悲しんでいる時間は無い。何事もなかったかのように仕事に復帰しなければいけない。M16がブラック企業ではないかと思うばかりの理不尽さだ。

誰にでもこのような理不尽な経験があるだろう。私が外資系で有名な大手コンサルタント会社で働いていたときの話になる。コンサルタントとしての通算成績は世界約1000名のコンサルタント中の売上トップになったこともあり、在籍期間中は10位以下には落ちたことが無かった。新規開拓率が圧倒的だったので数字以上に貢献していた。

それでも、評価はバラバラだった。生意気な若造の活躍が面白いわけがない。また、私にはマイナスの評価を防ぐための努力が明らかに欠けていた。社内の実力者に自分を売り込み、社内の飲み会に積極的に参加してお酒を注いで回り、上司に敬意を表し、決して奢おごらず、偉ぶらずということはしなかった。むしろ逆だった。

社内の飲み会には参加せず、終電が無くなったからと毎日タクシーで帰宅していたのでタクシー代は月額50万円を超していた。新規開拓の年間粗利が数億円あったので実際には微々たるものだが、上層部にはタクシー50万円という事実のみが印象に残っていた。そんな小さなことよりも、仕事で結果を出すことのほうが大事じゃないかと思っていた。

しかし業績だけで誰からも高評価を得られるとは限らない。評価第一主義のコンサルタント会社でその様である。一般企業であればより顕著なものになっただろう。評価されるには、人に好かれることである。評価を気にするのであれば、そこまでやるべきだろう。敵味方関係なく仲間を増やすことが最終的には身を守ることにつながる。

グローバル体制というあやうさ

コンサルティング会社には裏話が多い。世界50カ国に拠点があるといっても、社員が常駐していない国がある。それでも、世界50カ国30言語と聞くと、グローバル体制に聞こえるから不思議だ。世界連結と聞けばそれっぽいが、日本が全世界売上げの70%を占めている。日本で1位になることは、世界で1位になることと同じだった。

それでも、世界NO1コンサルタントと紹介されれば、悪い気分はしない。ファームにはこのような形態のところが多いのではないだろうか。実情はお見通しだから、2000年以降、大手ファームの合併・吸収が相次いだのも理解できる。もし、あなたの前に、自称「敏腕コンサルタント」が登場したら念のため確認したほうがいいだろう。

参考書籍
007に学ぶ仕事術』(同友館)

尾藤克之
コラムニスト

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