自分にピッタリの仕事って?

荘司 雅彦

就職先が決まった学生の中には、「本当にこの会社でよかったのだろうか?」「自分のやりたいことはもっと別のことではなかったか?」といった疑問を持ち、中には深刻に悩む人もいるようです。
パスカルの代表作「パンセ」には以下の記述があります(「パンセ抄」鹿島茂編訳)。

一生のうちで一番大事なのは、どんな職業を選ぶかということ、これに尽きる。ところが、それは偶然によって左右される。習慣が、石工を、兵士を、屋根葺き職人をつくるのだ(断章97)

「偶然によって左右される」という部分は、私の胸に深々と突き刺さりました。
詳細は以下の過去の講演音声をお聞きいただきたいのですが、1980年10月4日が雨降りであれば、私は間違いなく長銀ではなく東京海上に就職していました。

私に限らず、就職に際して、ほとんどの人たちは「偶然によって左右される」のでしょう。面接官の当たり外れはその最たる例です。かくして、パスカルの説く「一生のうちで一番大事なこと」は偶然に左右されてしまうのです。

しかし、「パンセ」には次の記述もあります。

人間は、屋根葺き職人だろうとなんだろうと、生まれつき、あらゆる職業に向いている。向いていないのは部屋の中にじっとしていることだけだ(断章138)

習慣の力というのはじつに偉大なものであり、自然が人間というかたちでしかつくらなかったものから、ありとあらゆる身分や職業の人間をつくりあげるのである(断章97)

要するに、人間には(何もせずじっとしていることを除けば)「向かない」仕事というものはなく、日々の習慣によってどんな職業にも適応できるということだと解釈できます。

実は、私は子供の頃から人見知りをする性格で、二十歳を超えるくらいまでは異性とまともに話ができないくらいシャイな性格でした。その私が、長銀高松支店に新人として配属され、よりにもよって窓口担当を経て外回りの個人営業に回されたのです。

お客様に好かれる自信など全くなかったので、当初は緊張の連続でした。しかし、毎日のようにお客様と接していると「丁寧に手際よく話をする習慣」が身に付きました。

飛び込み営業もたくさんこなし、新規顧客もたくさん開拓することができるようになりました。
高松から東京に転勤になる時は、たくさんのお客様から感謝の言葉や、お餞別をいただきました。
今から振り返ると、その後の法人営業も含め、営業職をやっていた時が一番楽しかったように感じられます。

もちろん、人間には「向き不向き」はあります。
しかし、それは絶対的なものではありません。
生来的な「向き不向き」は、パスカルが説くように「日々の習慣」によって必ず克服できるものと私は信じています。

社会人として仕事をするのであれば、目の前に与えられた仕事に一生懸命取り組むことが第一です。
それが巡り巡って大きな財産になることが、とてもとても多いのです。

私が弁護士になって役に立った経験は、一人一人と向かい合う営業経験と(財務分析を含めた)多様な会社や業種に対する知見でした。

「自分にはとても向かない。決して上手くこなせない」と当初悩んでいた仕事が後の大きな財産になったのです。
当時の経験を、今ではとても感謝しています。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年9月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。