「ロンドン地下鉄爆弾テロ」の警告

長谷川 良

ロンドン南西部を走る地下鉄のパーソンズ・グリーン駅で15日午前8時20分頃(現地時間)、出発したばかりの車両内で爆発が発生、少なくとも30人が負傷した。幸い、死者はいない。イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)が同日、系列下のアマク通信を通じて犯行声明を出した。朝のラッシュアワーで混む地下鉄内の乗客を狙った無差別テロ事件と判断し、英警察当局は警戒を強めている。

▲ニュー・スコットランドヤードのロンドン警視庁本部(ロンドン警視庁公式サイトから)

▲ニュー・スコットランドヤードのロンドン警視庁本部(ロンドン警視庁公式サイトから)

地下鉄内で荷物を置いた持ち主の行方を追っていた英警察当局は16日、南部の湾岸都市ドーバ―で18歳の男を重要容疑者として逮捕したという。詳細な身元は発表されていない。単独犯か複数の容疑者がいたかは不明。捜査当局は監視カメラなどを通じて容疑者の割り出しに全力を投入している。

ISは犯行声明の中で、「カリフの兵士たちが複数の爆弾を仕掛けることに成功。これまでのところ30人が負傷したが、これからもっと大きなことが起きる」と予告している。
英政府は同日、テロ警戒レベルを5段階の最高度に当たる「危機的」に引き上げた。ちなみに、英国では今年だけで5件のテロ事件が発生している。

BBCの映像をみると、冷凍商品を入れる買物袋の中に白い容器が見え、何かが燃えている。買物袋からワイヤらしきものも見える。現地のメディア報道では、「手製爆弾が何らかの理由で完全に爆発しなかった可能性がある。爆発物が計画通りに爆発していたらもっと多くの死傷者が出ていたかもしれない」という。

欧州で最近発生したイスラム過激派テログループによる地下鉄やバスなどをターゲットとしたテロ事件をまとめる。

①欧州最大の犠牲者を出したテロ事件はスペインで2004年3月11日、「マドリード列車爆発テロ事件」が発生した。同事件では191人の犠牲者、2000人以上の負傷者を出した。欧州最大の犠牲者を出したテロ事件だ。犯行は国際テロ組織「アルカイダ」が表明した。

②ロンドンでは2005年7月7日、地下鉄3カ所とバスが爆発され、56人が犠牲となる「ロンドン同時爆破テロ事件」が起きた。今回と同様、乗客の混む時間帯に発生した。犯行は国際テロ組織「アルカイダ」だった。

③ロンドンで今月15日、地下鉄のパーソンズ・グリーン駅で出発したばかりの車両内で爆発が発生、これまでに30人が負傷した。ISが犯行を声明した。

欧州では昨年7月14日、フランス南部ニースのプロムナード・デ・ザングレの遊歩道付近でチュニジア出身の31歳のテロリストがトラックで群衆に向かって暴走し、86人を殺害するというテロ事件が発生したが、それ以来、トラックやワゴン車を武器として利用するテロ事件が多発してきた(「『車』が走る凶器となって暴走する時」2017年8月19日参考)。スペインのバルセロナで8月17日、白いワゴン車が観光客で賑わうランブラス通りを暴走し、少なくとも14人が死亡、100人以上が負傷したばかりだ。

イスラム過激派テログループが車両を武器にしたテロを実行する一方、地下鉄内でも爆発テロを画策してきた兆候が見られるだけに、欧州の治安関係者は警戒している。いずれもソフト・ターゲットを狙ったテロだけに対策は容易ではない。

西側テロ専門家の間では、「イスラム過激派テロ組織は今後、地下鉄など公共運輸機関で爆弾テロだけではなく、神経ガスなど化学兵器を利用したテロを実行するだろう」という声が聞かれる(日本のオウム教団の「地下鉄サリン事件」がある)。

毎朝、数十万人、数百万人が乗り降りする欧州のメトロポールの地下鉄でサリンや神経ガスを使用した化学テロが発生した場合、その被害は計り知れない。その「Xデー」はもはや遠い先ではないだろう、と警戒されている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。