カロリーベース食料自給率という欺瞞

荘司 雅彦

農水省のHPの食糧自給率のページは、次のような表現で締めくくられています。

先進国と比べると、アメリカ130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%となっており、我が国の食糧自給率(カロリーベース)は先進国の中で最低の水準となっています。

これを読むと、日本の食糧自給率は最低水準なのでもっと上げなければならないと考える人が多いのではないでしょうか?

ところで、このカロリーベースの食糧自給率とはどういう意味なのでしょう?
農水省HPの同じページでは以下のように説明されています。

「日本食品標準成分表2015」に基づき、重量を供給熱量に換算したうえで、各品目を足し上げて算出。これは、1人・1日当たり国産供給熱量を1人・1当たり供給熱量で除したものに相当。

日本食品標準成分表というのは、大雑把に表現すれば食品の成分構成を示したものです。
具体的には、私たちが日常食べている卵の成分の多くは卵を産む鶏の飼料です。
飼料のほとんどが輸入品なので、卵の9割くらいは自給できていないことになります。
もっとわかりやすく表現すれば、(カロリーベースの食料自給率において)卵の9割以上は輸入食品と同じ扱いになっているのです。

ここで誰もが素朴な疑問を感じるのではないでしょうか?
では、鶏舎の電気代や建築素材もカロリーベースの食糧自給率に換算すきではないか?
農作物を作る際に用いる耕運機やその燃料のガソリンもカロリーベースの食糧自給率に含めるべきではないのか?
という。

しかし、これらは農水省が先進国中最低水準と表現するカロリーベースの食糧自給率には換算されません。
このように、カロリーベースの食糧自給率というのは極めて曖昧な概念なのです。
カロリーベースの食料自給率を全面に押し出す農水省の見解は、欺瞞に近いものだと私は思っています。

ちなみに、生産額ベースの総合食糧自給率は、以下のように定義されています。

「農業物価統計」の農業庭先価格等に基づき、重量を金額に換算したうえで、各品目を足し上げて算出。これは、食料の国内生産額を国内消費仕向額で除したものに相当。

これはわかりやすいです。重量(つまり量)を金額に換算して食糧自給率を計算しているので、私たちが普段意識している食糧自給率とほぼ同じです。

平成28年度の日本の生産額ベースの食糧自給率は68%です。
先進国で100%を超えているのはカナダとオーストラリアだけ。アメリカ92%、フランス83%、ドイツ70%、イギリス58%、イタリア80%、スイス70%となっています。生産額ベースの食糧自給率で、日本はイギリスより10%も高く、ドイツやスイスより2%低いだけです。

私は、食糧自給率は低い方が望ましいと考えています。
供給源を分散することによって安定供給を図れるので、天候不順等による価格高騰を防ぐことができるし、平地の少ない日本の国土は農産物生産に不向きです。
貿易という観点から考えると、明らかに比較劣位にあります。

このように主張すると、必ず「食料安全保障は大切だ」という反論が出てきます。
そのような反論をする人に私が言いたいのは、「原油輸入が止められて電気が使えない状況でどうやってお米を食べるのか?電気炊飯器も電子レンジも動かなければ米俵がたくさんあっても無意味ではないか?」ということです。

欺瞞的な概念ともとれる食糧自給率という錦の御旗の下に、日本の農家には莫大な血税が投入されています。
専業農家がほとんどなったことも斟酌すれば、そこまでの過剰な保護は明らかに血税の無駄遣いです。

成長分野や、保育園の増設といった私たちの生活向上のためにその分の税金を回すべきだと私は思うのですが、いかがでしょう?

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荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年9月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。