【映画評】チェイサー

シングルマザーのカーラは、いつも訪れている公園で一瞬だけ目を離したすきに、4歳の息子フランキーを何者かに連れ去られてしまう。車で必死で追いかけるが、犯人は誰かわからず、まともに取り合ってくれない警察は当てにならなかった。息子を絶対に取り返すと誓ったカーラは、たった一人でフランキーを探し出し、取り戻そうと決意する…。

アメリカで社会問題になっている児童誘拐を題材にしたアクション・スリラー「チェイサー」。子どもを誘拐された親がどんな犠牲を払っても我が子を取り戻すというストーリーは「96時間」に似ているが、本作の母親カーラは、元凄腕スパイや元CIA特殊工作員などではない、平凡なウェイトレスなのだ。だが我が子を愛する気持ちと絶対に取り戻すという強い決意は「96時間」の最強の父親に勝るとも劣らない。息子を乗せた犯人の車を自分の車でひたすら追いかけるだけという展開は、一見メリハリがないように思えるが、次から次へとトラブルが巻き起こり、一瞬も目が離せなくなる。このテの追跡劇では必須の小道具のスマホを使わせない設定が、なかなか新鮮で、まさに身一つでの戦いだ。

オスカー女優でボンドガールも務め、ゴールデンラズベリー賞も受賞するという変幻自在(?)の美女ハル・ベリーも50歳を超えてさすがに老けたが、それでもほぼノーメイク、鬼の形相でも、やっぱり美しく、狭い車内での一人芝居に近い演技も迫力たっぷりだ。犯人はいったい何のためにカーラの息子を奪ったのか。その理由は、終盤に明かされる。アメリカでは18歳未満の児童誘拐事件は、年間約80万人、1日当たり2000人超ともいわれているそう。ヒロインの受難は、誰にでも起こりうる身近な出来事なのだということを知れば、アメリカの闇ともいえるその恐怖はリアルなものになる。カーラが地元の警察で、沢山の行方不明になった子どもの顔写真を見て絶望の表情を浮かべた後に、愛する息子を守るためには自分が動くしかないと決意する一瞬に、母の強さを見た。
【65点】
(原題「KIDNAP」)
(アメリカ/ルイス・プリエト監督/ハル・ベリー、リュー・テンプル、セイジ・コレア、他)
(母は強し!度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年9月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。