体制崩壊後の混乱収拾に責任を
北朝鮮問題では、難民対策が避けて通れない展開があり得ます。安倍政権はどうして、そのことについて何も語ろうとしないのでしょうか。
北朝鮮と日米は、国連の制裁問題より、挑発合戦に躍起です。安倍首相も「異次元の圧力をかける」と、最大級の表現を使い、発言の内容をどんどんエスカレートさせています。北朝鮮の政治体制、経済社会の崩壊があった場合、おびただしい数の難民が半島に発生します。当然、日本は難民受け入れに動き、国際的な責任を果たす必要があります。首相にその覚悟はあるのでしょうか。ほとんど触れようとはしません。
諸悪の根源は金独裁体制にあり、国民の多くに飢餓という犠牲を払わせながら、核ミサイルの開発、実験、配備にまい進しています。金体制の崩壊、転換を図るのは、日本としても正しい選択です。問題は制裁、圧力の行使に伴う北朝鮮の混乱の収拾に日本がどこまで乗り出すかです。少なくとも「難民対策で日本は責任を果たす用意がある」と、宣言することが必要だと、考えます。
米国は「地理的に近く、アジアの主要国である日本が責任をもつべきだ」という考えでしょう。韓国は国境を越えて混乱が波及するため、難民対策ひとつとっても、こなす余裕はなく、日本に協力を求めてくるでしょう。
難民は北からも韓国からも
北朝鮮から日本に直接、押し寄せる難民の数は大したことはないという見方もあります。漁船に乗って日本海を越えようにも、燃料がない。難民は韓国へ越境するからです。北朝鮮の混乱の余波で、韓国自体にも難民が発生する。「その数は100万人単位、こちらのほうが心配」とみる識者もいます。
安倍首相は国連演説(9月20日)で「脅威はかつてなく重大。眼前に差し迫っている。残された時間は多くない。必要なのは対話でなく、圧力である」と断言しました。「すべての選択肢(軍事力行使を含む)はテーブルの上にある」とするトランプ大統領を支持すると述べ、トランプ氏は「場合によっては、北朝鮮を完全破壊する」と。単なる脅しなのかもしれないにしても、安倍首相は事態が切迫していると、予告しています。
2020年の東京五輪を北朝鮮の危機が重なることを首相は恐れているのでしょうか。とにかくそこまでいうのなら、朝鮮半島で難民が大量に発生し、日本に責任分担が重くのしかかってくることに、覚悟を決めてかからねばなりません。「いずれ」というのではなく、「切迫」という首相の発言は重いのです。
膨大な出費に備えはあるのか
日本は大規模な難民対策の経験がないし、その費用は膨大な金額になるでしょう。「異次元の圧力」、「米国と一体」とまで明言したからには、難民問題に触れるのが政治家としての責務です。衆院選の選挙公約で「国民は覚悟してほしい」とまで書くべきなのです。北朝鮮問題で膨大な費用がかかるのに、そのことを前に「全世代型社会保障」、「アベノミクスの加速のために財政拡張」を掲げるのはどうしたことでしょうか。
「北朝鮮を断じて許さない」、「対話路線では解決しない」、「圧力をかけるしかない」の発言では、首相は正しいことを言っていると、思います。「正しくないのは、発言していないところにある」が問題なのです。「発言していないところ」というのは、難民対策を含め、体制転換後の混乱に日本がどうかかわっていくかです。
首相は無言のままです。支持率を上げることしか言わないということでしょうか。発言は強硬でも、実際は膠着状態が長期化し、核ミサイル問題の解決は棚上げになるとの見方もあり得ます。そう思っているのなら、トランプ氏に同調し、「異次元の圧力」などと言わないことが必要です。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年9月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。