今回の解散総選挙、魅力を感じるところがあまりないのだが、「政治とメディア」を専門とする人間から見ると、ひょっとしたら、2005年の郵政選挙以来の劇場型総選挙になる嫌な予感もある。きのうの安倍首相と小池百合子都知事の記者会見は、両者の間ではやくも“心理戦”であり、前哨戦としての見ごたえは十分であった(動画はYouTube「tokyonews jp」チャンネルより)。
当初、小池新党の設立表明記者会見は、安倍首相が連休明けのきのう25日に解散表明の記者会見をした後の27日にも行われるはずだった。ところが、小池氏は首相の記者会見に先手を打つ形で、上野動物園のパンダの名前発表に後付けし、新党の名前と自身の代表就任を発表する記者会見を行った。産経新聞がその舞台裏に言及しているが、やはり急きょのことだったようだ。
客寄せにパンダも!新聞記者と異なる、PR視点からみた小池氏の狙い
その背景には、ここまでの解散シナリオは安倍首相の電撃策が一定の効果を発揮し、産経の松本学記者も指摘するように、新党の支持率が伸び悩み、小池氏自ら前線に立つことで支持拡大を狙っているのは間違いあるまい。ここまでの若狭氏、細野氏が準備してきたことを「リセットする」とまで強調。細野氏には気の毒なほど形無しなことだが(苦笑)、PR視点から見たとき、新聞記事では触れられていない、小池氏得意のメディア戦術の意図が見え隠れする。
まず“客寄せ”として文字通り、上野動物園の人気者である赤ちゃんパンダ命名のネタをフックに使うことで、いやがうえにも自身が取材されやすいよう、なおかつ、より大勢のメディアが集まりやすいように「導線」を引いている。
次のポイントは、記者会見の時間帯。パンダの会見を午後2時にスタート。その後、記者会見の登壇場所を、東京都のインタビューボードのないところに移して、「国政に関する記者会見」を2時半ごろから実施した。2時台の会見自体は、毎週金曜の定例会見と同じ時間帯だが、この日はイレギュラーの会見。時間設定をここで行ったのは、この時間帯は小池氏を積極的に取り上げてきた「ゴゴスマ」(TBS系)などのワイドショーのオンエア中でもある。長尺での生中継は主婦やお年寄りなど、有権者のマジョリティーへの露出効果は高いことを考えると、小池氏がこの時間帯を意識していたとしてもおかしくない。
さらに小池氏はテレビキャスター経験者として、メディア側がこの日の番組をどういう構成にするか経験則で知り尽くしているはずだ。安倍首相の記者会見と同日にぶつけてきたのは、「安倍VS小池」の対立軸を明確に浮き彫りにさせることに他ならないだろう。「古い政治を新しく」を掲げ、都議選で圧勝した再現を狙うとなると、あらためて安倍首相を敵役として悪目立ちさせるストーリーを展開させる必要があるのだ。
昨年の参院選投票日の騒動に見る、公示日前のメディアパフォーマンス
そのことは、選挙期間中に入ると、放送法などで定められた政治的中立性により、メディア側の露出は各党、各陣営とも公平に平等な扱いになってしまうことも大きい。劇場型選挙を盛り上げるには、選挙戦本番に入る前までが勝負であり、テレビ向けの凝った演出は、短期集中で矢継ぎ早に繰り出す必要がある。
振り返れば都知事選の前もこんなことがあった。拙著『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)でも取り上げたが、都知事選4日前の参院選投開票日(7月10日)。午後8時に投票が終わった直後、自民党本部に大勢のマスコミが集結していたところへ、小池氏が突如出現。当時、都知事選に自民党と分裂して出馬するか注目されていた彼女の登場に、メディアは蜂の巣をつついた騒ぎになった。
目的は、党本部1階にある都連事務所に、推薦願の取り下げだったというが、なんのことはない。選挙の推薦など、彼女が取り下げなくても都連はその時点で別の候補者を擁立する準備をしていたことは周知の事実であり、目的は、選挙戦本番に入る前にいかに露出を増やすかということだった。
その狙いを私は前述の拙著で仮説として提示した後、小池氏の選挙を仕切った現特別秘書の野田数氏は、著書「都政大改革」(扶桑社)でほぼ仮説通りの意図だったことを明らかにしていた。読んだ時には、答え合わせで正解をしたような思いになったものだった。
今回の総選挙も10月10日のスタート前までに、同じ「手口」を小池陣営がまた駆使し、世の耳目を集めるための「隠し芸」を繰り出してくるのだろう。
小池新党が一波乱の兆しも。国民は炎上芸の魂胆を見抜けるか?
特にきのうの国政政党代表就任をもって、都議選で共闘した頼みの公明党は怒って都民ファーストの会との連携解消の方針に転換したことが報じられた(時事通信)。小池氏にとって都知事選の時と同じく、再び「組織票0」の状態に振り出しに戻ったわけだ。当然、支持政党なし層の取り込みと、世間の関心と投票率のアップをはかるため数々の奇策、いわば隠し芸の炎上化に拍車がかかるのではないだろうか。
ちなみに、都議選での小池旋風を早くから予測して的中させたJX通信社社長の米重克洋氏は、同社がこの週末に実施したという情勢調査の傾向を意識してか、小池新党が今回も一波乱起こす可能性を視野に入れたかのようなツイートをしている。アンチ小池のネット民には気がかりなところだ。
小池新党(希望の党)を選挙互助会だというのは情勢を過小評価しかねないので注意が必要だと思う。従来の新党と明らかに色が違うのは、野党にいながら保守票(今で言えば自民支持層)にも食い込んで当選してきた「選挙に強い」議員が初っ端からかなり参加していること。
— 米重 克洋 (@kyoneshige) 2017年9月25日
さて、小池氏が公示日までに、どんなネタを出してくるのかある意味見ものではある。今度こそ、国民もメディアも小池氏の“魂胆”を見抜くことはできるのだろうか。
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