ベンツからプリウスへ!見栄を無くせば見栄えが変わる?

尾藤 克之

写真は吉田氏。書籍書影より

「見栄」と聞いてなにを感じるだろうか。うわべを飾ったり、外観をつくろうことを「見栄」という。9月23日(土)に、本田健氏(ベストセラー作家)、吉田潤喜氏(ヨシダグループ会長)のトークショーを訪問してきた。今回は『「人儲け」できない人生ほどつまらないものはない!』を中心に紹介したい。印象深い機会となった。

吉田氏は、大学受験失敗を機に渡米、醤油ベースの「吉田グルメのたれ」を考案し、テレビCMなどで人気を博した。その後、米国中小企業局(SBA)が選ぶ全米24社の中に、FedEx、Intel、AOL、HPなど並んで「殿堂入り」を果たし、2005年にはNewsweek誌(日本版)で「世界で最も尊敬される日本人100」にも選ばれている。

「見栄」をコントロールするとは

――あなたが魅力を感じるのはどのような人か。吉田氏は「見栄のない人」と答える。人間なら誰でも見栄はあるので正確には「見栄をコントロールできる人」ということになる。「見栄」はやっかいな代物である。本質を見失う危険性がある。

「かく言う私も遠い昔、ヨシダソースが軌道に乗り始めたころ、ベンツに乗っていたことがあるので、あんまり人のことは言えません。『ベンツに乗ってる方が社長っぽいかな』『威厳があるように見えるかな』なんて理由で乗っていましたが、見栄以外の何ものでもありません。いま思えば恥ずかしいことです。」(吉田氏)

「最低限必要な機能を持った車に乗っている方が、はるかに自然だと思います。一番長く乗っているのはプリウスです。妻もプリウスに乗っています。」(同)

――吉田氏は、ある男性から「見栄をコントロールできる生き方」の素晴らしさを学んだそうだ。そのエピソードを紹介したい。

「私にそれを教えてくれたのは、マットという男性でした。マットと出会ったのは、まだ彼が取引先のCFO(最高財務責任者)をやっていたころです。取引先という関係もあったので、マットとはゴルフを2回ほどやったことがありました。ゴルフをしているときも、落ちついた好感の持てるプレーぶりでした。」(吉田氏)

「あるとき、『マットが会社を辞めたがっている』という話を人づてに聞きます。会社が株を公開し、『株価がすべてだ!』という風潮に変化していたのです。」(同)

スカウトに成功して入社。そして?

――そして、吉田氏はスカウトをすることになる。当然、マットは「あなたの会社で、何をするんだ?」と聞いてきたが、次のように答えたそうだ。

「正直に、『いまは、わからない』と答えました。はっきりしてるのは、今のあなたの給料はとてもじゃないけど払えないということ。ウチの会社にも苦労して会社をもり立ててくれた人がいっぱいいるから、いきなり高給で迎え入れることはできません。そして、肩書きは『役職なし』で来て欲しいと伝えました。」(吉田氏)

「肩書きを最初からつけてしまうと、既存の従業員が敬遠するようになる。だから最初は、肩書きもないけど、いろいろ助けて欲しい。すると、マットはすべての条件を快く受け入れて、会社へ来てくれたのです。」(同)

――マットは誠実だった。会社に慣れる頃には、従業員からも信頼を得るようになっていた。しかし、自分の能力をひけらかしたり、何かを画策するようなこともなかった。2年後、マットは副社長に就任、その後すぐにグループ18社を統括する社長に昇格する。

「彼は、役職が変わり、立場が変わっても、人柄と仕事ぶりは変わりませんでした。ファーストクラスを使うことも、秘書を付けることもしません。奥さんとの関係も良好で、20数年間、まったくケンカをしたことがなかった。そんなマットがガンに冒され、その後、10年間の闘病生活のうえ、ついに帰らぬ人となります。」(吉田氏)

「今まで、大勢の見栄と欲にまみれた人を見てきました。マットに出会ってから『見栄をコントロールできる生き方』の素晴らしさを考えるようになりました。」(同)

社会貢献はなぜ必要なのか

――最も感銘を受けたのは、吉田氏の社会貢献活動の実態だった。チャリティーイベントを広大な自宅の敷地で開催し集まった募金は全額寄付にまわす。ドエーンベッカー小児病院財団やポートランド・プロビデンス医療財団法人、ランドル子供病院財団法人、子供がん協会、ハイラインコミュニティカレッジ財団の理事としても貢献している。

私は、「アスカ王国」という障害者支援活動を小学生の頃からおこなっている。設立は国際障害者年の1981年。今年が35年目の活動になる。父が橋本正(故橋本龍太郎元首相ご母堂)と始めた活動で、現在は、橋本久美子(故橋本龍太郎元首相夫人)を会長にし活動を継続している。読者のなかにはご存知の方がいるかも知れない。

活動自体は、今年35年目を迎えている。区切りなので今後をどうするか思案していた。社会的な大儀や重要性は理解しつつも、労力・コストを考えれば決して簡単なものではない。今回、社会貢献に関する吉田氏の考えを知ることで、いままでの活動が間違っていなかったと確信することができた。これだけでも大きな意味があった。

拙著『007に学ぶ仕事術』のなかでも触れているが、3代目007ジェームズ・ボンド、ロジャー・ムーア氏の社会貢献活動は高く評価されていた。2003年にはイギリスのエリザベス女王からナイトの称号を受け、2007年には、国連から名誉人道賞を授与されている。2002年FIFAワールドカップの際には、ユニセフ親善大使代表として訪日もしている。

尾藤克之
コラムニスト

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