世の中選挙一色だが違う話題。個人情報保護法が改正施行されたのとタイミングを合わせて、総務省は『電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン』と『放送受信者等の個人情報保護に関するガイドライン』をそれぞれ改正した。前者には携帯電話の位置情報の扱いなどが定められているが、位置情報は捜査や救助に活用される一方で悪用の懸念もあるためガイドラインを定めるのはもっともである。
それでは「コンテンツを放り出せばおしまい」の放送事業についてなぜガイドラインが必要なのだろう。二番目のガイドラインで主に扱われているのは「視聴履歴」である。テレビをネットに接続して受信者個人に関する情報を送ったり、ペイパービュー(都度契約で有料番組を見る仕組み:PPV)を利用したりするうちに視聴履歴が集まってくる。これを分析すれば受信者の趣味・嗜好について高い確度でプロファイリングできるようになる。視聴履歴をどう保護し利用するかがガイドラインに書かれている。
ちなみに『平成28年通信利用動向調査』によれば、インターネット対応型テレビ受信機をネット接続に利用した世帯は13.2%だそうだ。一方、PPVは2015年末で340万人が利用していたとの推計がICT総研から発表されている。合計すると1000万人以上の視聴履歴が収集されている可能性がある。
ガイドラインは視聴履歴の利用範囲・本人の求めに応じての取得の禁止・要配慮個人情報の推知の禁止などを定めている。問題はこのガイドラインが放送事業者にしか適用されないことである。ガイドラインは「放送」を放送法に規定されるものに限定している。この結果ネット配信は放送に該当しない。ネット配信のほうが視聴履歴の収集は容易だが、それをどう保護・利用するかはガイドラインの外なのだ。
ICT総研の発表に戻れば動画見放題サービスの利用者は2015年末に640万人で、2019年末には1540万人まで伸びるという。「放送」を電波やケーブルに限ってきた20世紀の規制が、ネット配信はガイドラインの対象外という状況を生んでいる。そろそろ、放送とは何かを法律で再定義する必要がある。21世紀にふさわしい情報通信の利活用制度を選挙後の政権与党は実現していただきたい。