当社はWEBシステム開発をメインとする会社である。元々は官公庁相手の大規模なシステム開発やアウトソーシング、保守メンテまでを網羅していた。最近は、ECサイト、モバイルサイト等のWebシステム開発が増えている。徹底した顧客思考を旗印に、ユーザビリティ、アクセシビリティを意識した仕様が求められている。
部下に責任を負わす上司がいる
その日はどうも上司の様子がおかしかった。何だか全体的にソワソワしているのである。どうしたのだろうと、いぶかしんでいると、話の方向性が変わってきているのが分かってきた。上司は、暗に私を利用してやろうと思っているのである。それはある案件の撤退戦だった。社内でも撤退戦を誰が担当するか話題になっていた。
某大手家電メーカーのN社では、家電事業へのてこ入れを図るため、コスト削減のための最新の生産管理システムの導入を検討していた。当社が受託し動かしていたのだが、要件定義が定まらないままスケジュールに押される形で見切り発車をした。確定したはずの要件定義が何回も見直され、その結果、赤字案件に陥ってしまう。
なんとか開発工程にまで持ち込んだが、「インターフェースが悪い」「ユーザビリティーがなっていない」と非難の嵐が巻き起こっていた。メンバー一同、頭を抱えており、中には突然出社しなくなったメンバーも出てきていた。いかにプロジェクトを収束させるか。誰も見当がつかず、途方に暮れていたのである。
上司は、このプロジェクトに私を投入し、すべての責任をなすりつけようという魂胆なのだろう。「先日、君が起こした、契約社員に対するパワハラは懲戒相当だ。それを、この私が、君の将来のためを思って不問にした。わかるかね?」「汚名を返上するためのチャンスだと思ってこの案件に取組んで欲しい。これは業務命令だ!」。
当然のことながら、ここでNOと返事することはできない。断れば、上司に楯突いた社員として僻地に飛ばされるかも知れない。または、セクハラを理由に査問会議が招集されたら分が悪い。「分かりました。どこまでできるか分かりませんが、最善を尽くしたいと思います」。承諾する私を見ながら、上司はニヤリと口角を上げた。
自分は楽をして相手に仕事をさせる
「007リビング・デイライツ」に次のようなシーンがある。コスコフ将軍がKGBのプーシキンを黒幕として明かしたシーンである。プーシキンがスパイの抹殺を企んでいるとの告白に驚くM。ボンドに対して、プーシキン暗殺の指令を出す。ボンドはプーシキンと対峙するが、コスコフ将軍がソ連の公金を横領していることを知る。
つまり、MI6をトラップにかけてプーシキンを暗殺させ、横領の件を闇に葬る計画だったのである。暗殺指令が出されたプーシキンはボンドに殺害されては困るから、必死になって証拠を探して計画を探ろうとする。ボンドはプーシキンを見張るだけで何もしない楽な仕事ぶりだ。007シリーズにはこのようなシーンが多く存在する。
自分で手を下さずに、誰かに仕事をさせて責任を負わせるのが最も都合がよい。これは先ほどのシステム案件の撤退戦と理屈は同じである。撤退戦は成果を出すことが目的ではない。被害を最小限にしてクロージングすることが求められている。先ほどの案件であれば、上司に責任が及ぶことなく終了させることが求められる。
このような局面で、上司の期待に応えられれば、信頼や評価が一気に高まる。当然リスクもともなうが、トラブルを積極的に拾いにいくことで、自分の地位をグイグイ確固たるものにしていくことができる。しかも撤退戦だから、上司の弱みを共有することができる。もし撤退戦が転がっていたら積極的に拾うことも一考だろう。
社内に落ちている毒まんじゅうを食べたところで、大した被害はない。事業を成功させるための努力は大変だしライバルも多い。しかし、撤退戦なら誰もやらないので評価も上がりやすい。トラブルの最終処理を仕上げることで、上司も助け、最後に自分の人望も集まる。これこそが究極の火消し術といえるだろう。
参考書籍
『007(ダブルオーセブン)に学ぶ仕事術』(同友館)
尾藤克之
コラムニスト
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