社内の毒まんじゅうに気をつけろ

DVDパッケージより

私は仕事が思うようにいかず、苦悩していた。これまでの仕事人生の中でも、名案が思い浮かばなかったり、誰かに邪魔をされたり、予期せぬ事態に翻弄されたりという経験は当然あった。しかしここまで脳みそを酷使しているのに事態が何一つ進展しないことはなかった。この案件はかなり手強いと感じていた。

トラップに引っかかるな!

A社の案件は、見切り発車だった影響もあり、かなり遅れていた。先週、ようやく実装段階に入ると思われたが、あまりの不具合の多さに話にならないと先方から思いっきり罵倒された。メンバーは疲れ果てどうでもいいといった表情を浮かべている。先方には契約不履行で裁判を起こすと息巻く役員まで現れ始めた。

私の窮状を聞きつけたのか、久方ぶりに同期の、井上からメールが届いた。井上とは3年前、優秀な若手メンバーだけを集めて行われた社内懇親会にて出会った。その当時のメンバーで飲み会が催されるという。「参加者は各領域のエキスパートだ。何か有益な情報が手に入るかもしれない」。わらにもすがる思いで出席を決めた。

当日、会社近くの店に集まったのは8人。カウンターとテーブル席が2つだけの小さな店で、店内貸し切りとなっていた。私と井上はカウンターの一角に陣取り、ウォッカ・マティーニを舐めていた。するとその横に、「ねぇ、A社の案件に絡んでいるんだって?」としなだれるようにほおづえをつき、ビクトリア不二子が座った。

彼女は、現在は経済アナリストを育成する部門に在籍しているはずだ。トップクラスの能力もそうだが、なんといっても目を引くのは、その美貌である。身長170cmを超えるプロポーションと、エキゾチックな表情には誰もが魅了された。「大変じゃない?うわさは色々と聞いているのよ」。私はカシューナッツをつまむ。

「実はA社では煮え湯を飲まされたことがあるの」。「最後に言いがかりをつけて値切ろうとする。お金にセコイ相手だから一筋縄ではいかない」。「そうなんだ」。「回避する方法は一つしかないわ。常務の真崎をトラップで陥れるしかない」。「マジか?」。「興味があったら、聞いてみる?秘密の作戦」。私は固唾を呑んで次の言葉を待っていた。

トラップを踏む人の特徴

「007カジノ・ロワイヤル」でボンドは毒を盛られるというトラップに遭遇した。世の中の誰もがトラップなど踏みたくないと思っている。しかし、社内にはライバルを陥れるためのトラップがいくつも用意されている。ビジネスパーソンはトラップを避けなければ、社内のポストに有りつくことはできない。

私の経験上、どのような人がトラップを踏みやすいか最初に述べておきたい。まず、敵をつくらない人は当然ながらトラップを踏むことが無い。踏むのは、仕事ができて有能だが唯我独尊で自分勝手、相手のポストを脅かす人(上層部のコネで入社してきた)、社内で戦力外になっている人など様々である。

彼らには総じて特徴がある。その特徴とは、陰口や悪口の多い人である。陰口や悪口は聞いていて気持ちの良いものではない。ところが多くのビジネスパーソンは憂さを晴らすかの如く、酒が入れば上司の陰口や悪口の大合唱になる。優秀なビジネスパーソンは、陰口や悪口はいずれ自分に戻ってくることを知っている。

故田中角栄元首相は「男を磨くうえで、絶対的な信用をつけるうえで、欠くべからざることが人の悪口をいわないことだ」と述べている。陰口や悪口が大きなリスクになるということだろう。組織という中で一緒に仕事をする以上は、相手に敬意を払わなくてはいけない。ボンドは情報部員なので敵と命をかけて戦わなければいけない。

命をかける以上、かなり理不尽な仕事も要求されるだろう。しかし、ビジネスパーソンは情報部員ではないから、ボンドのように命をかけて戦う必要性はない。普通にしている限り命を落とす危険性も少ない。あなたに、陰口、悪口を言う癖があったら気をつけたほうがいい。すでにトラップが仕組まれているかも知れないからだ。

参考書籍
007(ダブルオーセブン)に学ぶ仕事術』(同友館)

尾藤克之
コラムニスト

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