誰がAfDを飛躍させたか

長谷川 良

今月24日のドイツ連邦議会(下院)選挙後、同国メディアの関心は第1党の地位を堅持したメルケル首相が率いる「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)がどの政党と連立政権を組むかに移ってきたが、同時に、「誰が極右政党『ドイツのための選択肢』(AfD)を躍進させたか」という問いかけに強い関心が集まっている。後者の場合、犯人探しのような響きもするが、ナチス・ドイツの歴史を抱えるドイツだけに、極右政党、民族主義政党の躍進に内心穏やかではおれないからだ。

▲AfDから離党を表明したフラウケ・ペトリ―氏

▲AfDから離党を表明したフラウケ・ペトリ―氏

AfDは2013年に結成された新党だ。その政党が連邦議会選で得票率12・6%、94議席を獲得し、CDU/CSU、社会民主党(SPD)に次いで第3党に躍進したのだ。

先ず、投票結果の分析をみる。CDU/CSU支持者から約104万票、社民党から約50万票がそれぞれAfDに流れたという。2大連立政権への不満票だ。顕著な点は、普段棄権する有権者が今回、大量にAfDに投票したことだ。性別では男性票が多く、労働者や失業者がAfDに票を入れた。旧西独より旧東独で強く、ザクセン州ではCDUを抜いて得票率27%で第1党だった。

フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領はインタビューの中で、「AfDを躍進させた最大の助け手はメディアだった」という。AfD幹部たちの言動を大きく報道し、AfDのメンバーをトークショーに招いて議論させる。AfD幹部が出るトーク番組はいずれも視聴率が高くなるから、AfD幹部たちはテレビの人気者となる。メディアは小さなAfDを大きくした張本人だったというわけだ。

隣国オーストリアの極右政党「自由党」のヨルク・ハイダー党首時代を見てきた当方は「AfDの飛躍の主因はメディア」という主張はよく理解できる。ハイダー氏が登場する政治イベント、テレビ番組はいずれも高視聴率だった。ハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首になってからも同じだ。オーストリア国営放送や民間放送は選挙が近づけば、さまざまな政治トークショーを放映するが、シュトラーヒェ党首は人気者だ。彼が登場すれば番組が面白くなるからだ。ケルン首相(社会民主党)を登場させるより、視聴率も上がる。同党首は国民が考えてきたことをズバリ発言し、政権をこっぴどく批判する。視聴者はその主張に同意するというより、一種のカタルシスを感じる。

もちろん、難民問題はAfDの躍進の原動力になったことは間違いない。シリア、イラク、アフガニスタンから100万人を超える難民が2015年夏以降、ドイツに殺到した。その難民殺到の大きな原因はメルケル首相の難民歓迎政策だったことは間違いない。CDU/CSU)党内でもメルケル首相の難民政策に批判の声が挙がったほどだ。外国人排斥、反イスラムを標榜してきたAfDはその流れに乗って、メルケル首相の難民政策を厳しく糾弾し、ドイツ・ファーストを主張して国民の支持を得たわけだ。

ところで、連邦議会選で躍進したAfDで既に党内分裂が起きている。現実路線を主張してきたフラウケ・ペトリ―共同党首は26日、離党を表明した。アレクサンダー・ガウラント副党首ら現党指導部との対立は今年4月のケルン党大会で既に明らかだった。ペトリ―党首が作成した刷新案は党指導部から拒否されたからだ。

AfDは現実派と急進派との間で分裂している。連邦議会選で躍進したことで、党内は急進派が主導権を握ってきた。ペトリ―党首はAfDから離党し、夫のマルクス・プレッツェル欧州議会議員と共に新たな政党を結成するのではないかと囁かれている。

AfDとの連携で合意しているシュトラーヒェ党首は、「AfDは結成後、数年しか経過していない。現在の党内のゴタゴタは党が成長する段階で当然起きる現象だ」と冷静に受け止めている。

なお、ドイツでは来月15日、ニーダーザクセン州議会の選挙が行われる。AfDの動向が注目される。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。