よく「論より証拠」という表現が用いられますが、この表現は実に民事裁判(民事訴訟)によく当てはまります。
民事訴訟(民事裁判)では、「主張」と「立証」を明確に区別しています。
「論より証拠」の「論」が「主張」で「証拠」が「立証」に該当します。権利を主張する者は、この「主張」と「立証」を(法律要件分類説というルールに従って)きちんと行わなければなりません。
「主張」を間違える人は滅多にいませんが、かつて「被告はけしからん」という訳のわからない「主張」をした弁護士もいたそうです(笑)
原告が被告にお金を貸したから返せという訴訟を提起する場合、必要な「主張」は、①金銭の授受と②返還の合意の2つです。
言葉にすれば、「原告は、平成25年1月1日に、返済期限を平成27年12月31日と約して、金300万円を貸し渡した」となります。
問題の「立証」は、被告が署名捺印した借用証があればいいのですが、ない場合は困ります。
まさに「論より証拠」で「証拠を見せろ!」ということになります。
仕方がないので、原告としては被告に300万円を渡したところを見ていた証人に法廷で証言をしてもらうなど、他の立証方法を考えなければなりません。
これに対し、被告の「主張」としては2種類のものが考えられます。
ひとつは、原告の①と②の双方またはいずれかを「否認」する方法です。①の金銭の授受を否認するなら「お金なんて受け取っていない」となり、②の返還の合意を否認するなら「贈与してもらったものだ」となります。
もうひとつの被告の方法として「抗弁」というものがあります。
これは、原告の主張を認めた上で、自分には返済義務はないことを「主張」「立証」でするのです。
「たしかに300万円借りたが、平成27年12月31日に全額返済した」として領収証でも出せば十分です。
ここでも、領収証等がないと厄介な立証をしなければなりません。
以前ある人に、「証拠がなければ事実がなかったのと同じですよ」と言ったら、「荘司さんは面白いことを言いますね」と言わました。
上記のような「主張」「立証」のルールが頭にこびりついている私としては、当たり前のことを言っただけなのですが…。
「じゃあ、不倫をしても証拠がなければなかったことになるのですか?」と問われ、「少なくとも訴訟上はそういうことになります」と答えたら、これまた驚かれました。
「だって、性行為をしているところなんて立証できないじゃないですか?」と追及され、「男性とラブホテルに出入りしている写真を見せられても、マッサージをしてもらっていただけだとシラを切った女性もいました」と答えると、相手は呆然としてしまいました。
先般、「女性とホテルに泊まったけど性行為はなかった」と言い訳した著名人がいましたが、法律相談を受けていると案外そういうことってあるのです。夏目漱石の「三四郎」のようにビビってしまったり、かの報道のように喧嘩になってシラケてしまうとか…。
とはいえ、性行為の写真や動画という直接証拠がほとんど期待できない以上、ラブホテルに滞在したりホテルの同じ部屋で一夜を過ごしたことが明らかになれば、不貞行為を認定するのが訴訟実務です。
直接証拠はなくても間接証拠は十分ということで…。
では、直接証拠も間接証拠もない場合はどうなるのか?
道義上はともかく法律上は「なかったこと」になるのです。
まさに「論より証拠」なのであります(^^;)
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年9月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。