日本の“リベラル”はただの冷戦期保守派

城 繁幸

筆者は民進党にも希望の党にも別に期待はしていないが、民進党の希望の党への身売りを巡る一連のドタバタを見ていると、いろいろなことが分かって興味深い。

1.有権者はリベラルには厳しいが保守には甘い

都議選を見ても明らかなように、民進党の底抜けの原因は、野党協力を優先して左寄りに路線転換した結果、無党派層の支持層を失ったことだ。

一方で、無党派層は政策も綱領も不明な希望の党には大らかに見える。一都民からすると、都知事でやらかした豊洲を巡るドタバタみたいなものを全国区で繰り返されると非常に危ないと思うのだが、そこは大して問題視されていないように見える。

2.多くの民進党議員は、政策にはこだわっていない

あれだけ安保法制反対だの憲法違反だの言っときながら「安保に賛成しないと公認しない」という踏み絵をサクっと踏んで希望の党に滑り込もうというセンセイ方を見ていると、彼らが特に個別の政策にこだわりがあるわけではないというのがよくわかる。

実のところ彼らがやっていたのは「悪の独裁者アベをアピールすることで、それに立ち向かう正義のヒーロー」というポジションを作り、自らを押し込んでいただけなのだろう。

と思っていたら、朝日新聞がいいことを言っている。
「危機をあおって敵味方の区別を強調し、強い指導者像を演出する。危機の政治利用は権力者の常套手段である」っていうのは、まさに最近の野党側の姿勢だろう。

さて、一つだけ疑問が残る。
なぜ、ちょっと共産党と仲良くしただけで野党第一党が底抜けするほどに、リベラルは不人気なのか。

戦前のように日本はもともと保守色が強いからか。それともアメリカ以上に自己責任の考え方がしっかりしているためか。それともなんだかんだ言っても国民が幸福で困っている人がいないからか。

筆者はどれも違うと思う。もっと単純に、彼らの中に未来に対するビジョンが完全に欠落しているというのが理由だろう。

「安保法制反対」にせよ「憲法改正反対」にせよ、過去の何かと比べてダメだレベルの議論であり、現状を踏まえてこれからどうしていきましょうという議論ではない。何十年も前に出来た法がどうだから絶対にダメだ死守すべきだなんて言われても筆者はぜんぜんピンとこないし、多くの若い世代もそうではないか。

たぶん実際のリベラルへのニーズというのは、社会保障の世代間格差の是正とか大企業正社員以外をカバーするユニバーサルな社会保障とか、そういう部分にあるのだけれども、そこをガン無視した挙句に「変なところでワーワー騒いでるおっかない連中」というのが、大方のリベラル評ではないか。

そういう意味では、いま自分で“リベラル”と名乗っている人たちというのは、冷戦期の旧東側陣営にシンパシーを感じているだけの人たちで、その時代をよしとする実質的な“保守派”なのだろう。

そういえば保守の中にも「高度成長期バンザイな保守」「戦前の日本バンザイな保守」「武士道バンザイな保守」とかいるから、そういうのの仲間として「冷戦期の東側バンザイな保守」って位置づけでいいんじゃないか。

たぶんこれから社民党と共産党が連携して「リベラルを灯を守れ」とかなんとか言いだすだろうけど「冷戦期保守派がなんかぶつぶつ言ってるな」くらいにスルーしといていいだろう。

本当のリベラルは今は保守系とされる政党の中で、安全保障や経済政策では現実的なバランスのとれたスタンスを維持しつつ、大きな政府をしっかり主張するグループの中に出現するだろうから。※

その点、「安全保障関連法や憲法改正への賛同」を踏み絵とするのは、スタート地点として筆者は悪くないと思う。これからの左右はそこを出発点とすべきだから。

※書き終わって今気づいたが、それって安倍さんそのもののような(笑)


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2017年10月1日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。

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