10月1日、カタルーニャ州で独立を問う住民投票が行われた。その結果は日本でも報道されたように、独立支持票が90%を獲得したということが強調された。果たしてカタラン人は独立を望んでいるのであろうか?
有権者数5,343,358人、独立支持票2,020,144票、反対票176,566票,、無効票45,586票という今回の結果から、投票率は過半数を満たさず42%、独立支持率は38%だった。カタルーニャ政府は執拗に独立国家になるとして、それに州民も共鳴していたような今回の住民投票であった。それが、過半数を満たさない投票率という結果に終わった。なぜ?
カタルーニャ州には独立賛成支持派と同等の独立反対派がいるということなのである。反対派は今回の住民投票は違憲だとして投票しなかったのである。
読者に興味ある統計を以下に紹介しよう。
今年7月22日のカタルーニャ州政府管轄の意見調査センター(CEO)が発表した世論調整によると、州民の49.4%が独立反対、41.1%が独立賛成という調査結果になっているのである。2016年7月に賛成支持が反対支持を上回った時があったが、2014年12月から2017年6月まで独立反対が常に独立賛成を上回っていたのである。
また、今回の住民投票が違憲だとされた理由も日本では十分に報道されていない。
スペイン憲法155条の規定に「国家の統一を損なう自治州の政治活動は禁止されている。それを実施すれば中央政府はその自治州の機能を停止できる」という内容が謳われているのである。憲法裁判所は今回の住民投票は正に国家の統一を損なう行為だと判断して違憲の判決を下したのである。
この条項の中には住民投票をしてはいけないという言及はない。しかし、今回の住民投票はカタルーニャの独立に賛成か反対かを州民に問うということは国家の統一を損なう行為に匹敵すると判断されたのである。
それに対して、カタルーニャ政府は憲法裁判所の違憲だという判決を無視。そしてカタルーニャ州議会で独立のための立法化を賛成多数で決定させたのである。その法制化の草案も審議直前に野党に通知して野党が修正案を提出しようとしても、その為の充分な時間を議長は与えなかった。議会で野党は議長によって無視され、本来あるべき民主議会が独立を推進させよとする与党側によって冒涜されたのであった。
そのような背景があっての違憲住民投票の実施ということになった。そこで、スペイン政府はそれを阻止するための手段に打って出た。投票所を封鎖し、投票箱を押収することであった。出来れば、投票日前までに投票箱と投票用紙を押収したいとした。
また、投票日前後の治安の安全なども配慮してスペイン内務省は各地から治安機動隊と国家警察機動隊を1万人バルセロナに召集した。これだけの隊員の宿泊にバルセロナ市内のホテルと3隻のイタリア客船をチャーターした。
カタルーニャには1万7000人の陣容を持つ自治州警察というのが存在している。スペイン内務省は自治警察の存在は無視できないして、任務の遂行に自治州警察、治安機動隊、国家警察機動隊が連携して住民投票の阻止に取り組むと決められた。その為の統一指揮本部も設けられた。このプランに自治警察も同意した。自治警察も詰まるところスペインの警察である。しかも、警官に成る時にスペイン憲法に宣誓することになっている。
10月1日の住民投票日の数日前までに治安機動隊は投票用紙や投票箱を捜査して見つけ押収した。しかし、押収した投票用紙は500万人以上の有権者が投票することを考慮すると僅かの量でしかなかった。また押収された投票箱も2315か所の投票所に配置するのに必要な投票箱の数から判断して、ほんの僅かの数量でしかなかった。
また投票日の前日には治安機動隊は州政府が用意していた投票者の即時の身元確認の可能化や票の即座の集計などを行うネットシシステム機能を停止させた。その為、投票日に身元確認が即座にできないのを利用して最高4回投票場所を換えて投票した者もいた。それが報道カメラで確認されている。また、投票所には公正な選挙管理人もいない。結局、選挙管理人がいない中で独立支持派によってほぼ手作業で集計が行われることになったのである。そのような投票が正当性をもつことはない。
それでも、投票は実施された。早朝に各投票所に行ってそこを封鎖するということが決定された。その任務の遂行に地元の自治警察が優先された。自治警察もその任務の遂行を約束した。
しかし、当日になって自治警察は投票所を封鎖するどこらか、数名の警官が投票所を視察するだけで、大勢の市民がいるところを封鎖するには混乱が生じるとして素早くその場を去ったのである。中には逆に自治警察のパトロールカーの中に投票箱と投票用紙を余分に用意していたのも報道メディアがカメラでとらえている。
治安機動隊と国家警察機動隊は当日早朝ギリギリの時間まで自治警察の任務遂行を期待していた。しかし、もうこれ以上待てないとして9時過ぎに両機動隊が投票所に向かったのである。しかし、既に投票している市民を前に投票所を封鎖するのは至難の業であった。それでも両機動隊は440か所の投票所を封鎖した。
その封鎖の際に市民との衝突も発生した。それが、世界のテレビで「暴力を振るうスペイン警察」と題して報道されたのである。しかし、自治警察が当日早朝からそれを行っていれば今回発生したような事態は避けることができた。
その自治警察も結局は州政府に癒着した警察であったというのが今回の出来事で判明したのである。
しかも、任務を忠実に遂行しようとした両機動隊は逆に現在独立支持派の市民から迫害されて、バルセロナ市内の3つのホテルで宿泊している彼ら500人の隊員が宿泊を拒否される事態になっている。ホテルの経営者は彼らの宿泊を望んでいても自治体がそれに反対して、ホテルのリフォーム申請許可も認可しないと脅迫をしたという。そして、彼らが買い物をする一部店でも彼らの訪問を拒否しているという。
また、港に停泊している客船に宿泊している隊員に対しても、港湾労働者は彼らへのサービスを辞退している。
その一方で、カタルーニャ州政府に癒着して本来警官として遂行せねばならない務めを怠った自治警察は暴力を振るわない市民の為の警察だとして市民から歓迎されているのである。
カタルーニャ議会で野党の存在を無視して一方的に決定させた住民投票で賛成票が反対票を一票でも上回れば48時間以内に共和国として独立を宣言すると決められている。既に48時間が経過しているが、プッチェモン州知事はその独立宣言の発表を遅らせている。そして、スペイン政府との対話の可能性も模索しているという。その為に、EUからの仲介を求めているような発言をしている。
独立宣言をすることは容易であるが、それを行えばカタルーニャはEUから除外させられ、ユーロ通貨も使用できなくなる。更に、既に始まっているカタルーニャからの企業の撤退も急増する可能性がある。EUに加盟していない自治州に投資の魅力はない。
経済専門家が共通しているのはカタルーニャが独立すればGDPで20-30%の後退を余儀なくさせられると指摘している。
これらのリスクを承知のうえで、独立宣言を発表するのはカタルーニャ経済そして市民にとってリスクが高すぎる。寧ろ、この違法選挙の結果を土台にしてスペイン政府と対話の場を設け、カタルーニャの財政改善などを推し進めて行きたいようでもある。
一方のスペイン政府はプッチェモン州知事の政権との今後の協力は難しとして、憲法155条を適用してカタルーニャの自治制度を一時的に停止することの支持を野党から得ることを打診しているといわれている。この適用に必要な条件は上院議会で賛成過半数の支持を得ることとなっている。現在スペインの上院は与党が過半数の議席を確保しており、上院での155条適用の承認は容易である。
尚、これまでスペインが民主化になってから現憲法下でこの適用は前例がなく、しかもカタルーニャではスペイン政府への拒絶反応が強まっている現在、この適用は非常にリスクが高いともされている。