免疫療法報道の愚:リテラシーなきメディア

中村 祐輔

またまた、馬鹿メディアがやらかした。NHKが

「厚生労働省が地域のがん治療の中核に指定している拠点病院のうち全国の少なくとも12の病院が、がん治療の効果が国よって確認されておらず保険診療が適用されていない免疫療法をおととし実施していたことが、NHKの取材でわかりました。厚生労働省は『拠点病院の治療としてふさわしいかどうか議論を始めたい』としています。」

と報道した。

効果未確認の免疫療法 12のがん拠点病院が実施(NHKニュース)

今頃、何を寝とぼけたことを言っているのだ。取材力不足か、誰かの意図に沿ってこの報道をしたのか?民間では十年以上にわたって免疫療法が実施されているのに、今、何を問題としているのか理解不能だ。玉石混交の免疫療法の内容にも触れず、自らの無知をさらけ出しているような報道だ。本当に救いようのないメディアを象徴している。

また、「一部のがんの拠点病院が国が効果を確認していない免疫療法を実施していることについて、拠点病院の指定を議論する厚生労働省の検討会のメンバーで国立がん研究センターの若尾文彦医師は「拠点病院は有効性や安全性が確認された標準治療を提供することになっていて、科学的な根拠が確認されていない免疫療法は、臨床研究として行う以外、実施するべきではない」と指摘しています。」と紹介されていたが、これこそ、愚の骨頂であり、国立がん研究センターの抱えている問題だ。自らが、免疫療法を無視し続けてきたことが、今日の日本の体たらくとなっている反省が全くない。現有の研究支援体制で、十分な検証ができるのかどうか考えればいい。

最大の課題は、十分な臨床情報の集積が成されていない点であり、この責任の多くは、国立がん研究センターにある。こんなありきたりのコメントで規制を強くすれば、免疫療法の開発はますます遅れてしまう。厚生労働省管轄の拠点病院で、保険診療以外の診療をしていることに対する、単なる懲罰報道ではないのか?NHKは厚生労働省の回し者なのか?と疑わざるを得ない。

この公共放送も、がんセンターも問題の根幹と、どのようにすれば世界で急速に進んでいる免疫療法の評価を速やかにすることができるのか、この点を全く理解していない。根拠がないことに対して、それを評価していく責任のあるセンターが、何もせず、海外からに輸入に頼って「日本で一番に満足している」から国内での進歩がないのだ。このような意識の低い人間が、国立がんセンターを代表して、無責任な発言をしていること自体が大きな問題だ。理事長や院長は、この点についてどのように考えているのか、国を代表する機関として免疫療法をどのように評価し、開発していくつもりなのか、しっかり意見を述べてもらいたいものだ。

それともこの若尾氏のコメントが、センターとしての考えと理解していいのか、はっきりして欲しいものだ。近藤誠氏の無責任な発言に対しても、シカトを決め込み、何ら対応してこなかった。それがどれだけ多くの患者さんの不幸につながったのだろうか?このセンターは、長年に渡って、患者さんの方を向かず、役所の方だけを見てきた、そこから脱却しない限り、日本のがん医療には光が射さない。

NHKも相変わらずの能天気で無知で、見せ掛けの正義を振り回しているだけだ。とにかく、最近の記者は勉強もしないし、取材力もない。結局、一部の人間の思惑に利用されていることを理解していないのではないのか!もっと勉強して、患者さんのためにどのような報道をすべきなのか考えてほしいものだ。がんの世界は免疫療法を中心に大きく動いているのだ。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年10月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。