元NHK記者として過労死は氷山の一角と言いたい

水谷 翔太

NHKの女性記者が2013年7月に心不全で死亡した原因が「過重労働」だったということを翌年労基署が認定していたということが昨日広く報道されました。

元NHK記者として非常に腹立たしいのが、
・遺族が過労死の事実を局内に周知するよう求めていたにも関わらず周知、対策してなかったこと、
・NHK時代の同僚と久々に話すと、今回の過労死のことなんて頻繁に話題に上がるくらい有名な話だったのに、これまで一切世間に対して公表、説明責任を果たしていなかったこと

の2点です。

隠し通せると思っていたのかな。

今回の報道を受けてNHKはおっとり刀で様々な対策を講じることが予測されますが、こういう「事件」があってもNHKの労働環境は全く変わらないだろうと思います。

そもそも、管理職平社員含めて1人1人の「意識」が世間一般の常識とかけ離れているからです。

つまり、記者なんて馬車馬のように働いて当たり前という感覚が現場には染みついているということなのです。

2009年春、私がNHKに入局した際、上司に挨拶したら上司からは開口一番、

「お前が大学で何を勉強してきたか知らんが、これからお前の半生すべてを否定してやる」

と笑顔で言われ、「なかなかすごいとこに就職したなあ(苦笑)」と思いました。

その後、

「休みの日でも1日休んでたらバカだからな。数時間休めたら取材に出かけろ」

「給料つかない休みの時間も取材しとかないと情報なんて取れないからな」

「つーか給料って何のために支払われてると思う?取材先開拓のための費用だよ」

上司から衝撃的な発言の数々を聞かされました。

「よほどこの仕事が好きな連中じゃねーとやれねー仕事だな」と思ったから、ただちに転職を決めました。

マスコミ記者は昔ほどの人気はないものの、有名大学の学生の一部は「何が何でもマスコミに行きたい」と思っていて、マスコミ就活予備校も健在です。

私はそんな予備校には行ったこともなかったのですが、入局してみると周りはほとんどこの手の予備校やマスコミ現役社員、OBと語るイベントなどに足繁く通った経験がある方々でした。

銀行やメーカーとあわせて就職活動して、たまたまマスコミに入ってしまった私は一般企業常識をこの世界に持ち込んでも封圧されるだけだなと雰囲気を見て察しました。

それでもNHKはしばしばブラック企業批判の特集を組んだりするわけです。白々しいなあと思いました。

世間一般の「ブラック企業」は批判するけど、

「俺たちマスコミは『例外』だよ!無茶しねーとマスコミの現場なんて回らねーんだよ」

という本音は、決して視聴者の眼前に現れぬ報道フロアでは盛んに吐き捨てられていたように記憶します。

入局してから3年半の在籍中に私の同期はどんどん辞めていきました。その度にいろんな噂を聞きました。

殴られてやめたとか、
精神疾患を理由にやめたとか、、
精神疾患を理由に辞めさせられかけたとか、、、

「死ね!」とか卑猥な言葉を叫ぶことが趣味の管理職がいるという噂も聞きました

こうした噂が私の耳に入ってくる頃はもう転職を決めていて、私も心そこにあらずの、ストレス耐性ハイパーMAX状態だったので何も思いませんでしたが、このような過労死事件の報に触れると、あらためてあの組織の特異性に身の毛もよだつ思い出あります。

渦中のNHKに今提案したいのは、

「自らのありのままを正当化したいなら、怒号飛び交う報道フロアに定点カメラを置いて生中継したらどう?」

ということです。

ある意味政治以上に「納税者」の意思が反映されないNHK。

全国の視聴者にすべての情報をオープンにし、このままでいいかどうかという審判を仰いだらいかがでしょうか。

<水谷翔太>

前大阪市天王寺区長、株式会社Field Command’s Triumph 代表取締役

昭和59年9月9日生 早稲田大学政治経済学部卒業後、日本放送協会(NHK)に記者として入局。政治行政、経済、司法等幅広く取材。その後平成24年8月に橋下徹大阪市長が実施した公募試験に合格し、史上最年少(当時27歳)で天王寺区長に就任。行政区として史上初の子育てバウチャーを発行したり、softbankから協力を得て中高生向け即興型英語ディベートスクールを開講したりと先進的な施策を手がけた。 平成28年3月に任期満了をもって退任後は大阪市内に個人事務所を構え、公的機関、企業、病院の企画立案・執行、メディア対策支援にあたる他、講演活動等に取り組む。
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