世の中選挙一色なので関係する話。情報通信政策フォーラム(ICPF)では先日『根拠に基づく政策形成』についてセミナーを開いた。その様子はすでにICPFサイトで公開したので一読いただきたい。以下はそれに関連しての私見である。
行政事業レビュー公開プロセスに外部有識者として参加しているが、このような政策評価は民主党政権で始められた。2009年に誕生した民主党政権は前政権の進めてきた施策を否定し、民主党政権らしい施策を推進しようとした。しかし簡単には予算は捻出できない。そこで民間の力を借りて予算の無駄を明らかにしようと、行政刷新会議の下で「事業仕分け」を実施することにしたのである。
予算の捻出では仕分け人の知識・経験、もっと言えば勘が事業取捨の基準となる。蓮舫参議院議員がスーパーコンピュータは「二番じゃなぜダメなんですか」と発言したが、「なぜダメ」と聞いてたのでわかる通り、これは勘を頼りにした発言に過ぎなかった。
事業仕分けを発展させ、復活した自由民主党政権が始めたのが「行政事業レビュー」である。政府が進める全ての事業についてPDCAサイクルが機能するように、各府省が点検・見直しを行う「行政事業の総点検」が行政事業レビューである。無駄の削減が目的で、事業の必要性・有効性・効率性に基づき事業を評価する。
行政事業レビューの初期に総務省の「フューチャースクール」事業と文部科学省の「学びのイノベーション事業」が公開プロセスにかけられた。文部科学省の提出したレビューシートには成果目標の欄に「具体的かつ定量的な指標・目標の設定は困難である」と書かれていた。これに対して、公開プロセスは「成果指標などを取り入れたうえで、国民にわかりやすい工程表を作るべき」との結論を出した。事業は定量的に評価すべきというのは、当時から関係者に共通する認識であった。
教育へのICTの導入施策を評価するなら、ある学級はICTを導入して教授する実験群とし、対照群として実験群に近い生徒構成・成績の学級を選び、事後の成績を比較するのがよい。このように場合によっては実証実験を行って根拠を明らかにして、政策オプションの中から最適なものを選択するのが「根拠に基づく政策形成(EBPM)」である。
セミナーで報告されたのは米国労働省の取り組みである。失業給付期間短縮のために再就職支援プログラムへの参加を義務付ける是非を実証実験によって検証し、その後に義務化したそうだ。
EBPMの実践には統計データが不可欠である。わが国政府も気づいて2016年統計改革推進会議を新設し、統計データが収集できる体制作りの整備などを始めた。政府がEBPM推進に動いたことは行政改革の観点で歓迎でき、この火を消してはならない。各党の公約にEBPMが盛り込まれるように期待する。