昨年の都知事選で、小池百合子氏を支援した3人の都議たち、通称「ファーストペンギン」のうち、音喜多駿、上田令子両氏が5日、都民ファーストの会からの離党を表明した。たまたま自宅兼事務所でテレビをつけていたら、会見が始まったのでしばらくの間、見守った。
わずか1年での小池氏との決別はなぜ起きたのか
自民党出身の小池氏と、旧みんなの党出身の3人の都議は接点がなかったが、政界関係者によると、小池氏と親しい渡辺喜美氏の仲介で縁をもった。しかし、都知事選の後、小池氏は選挙参謀でもあった元都議の野田数氏を特別秘書に任命し重用。やがて地域政党として都民ファーストの会が発足し、同会代表を兼務した野田氏の強権的な党運営により、ファーストペンギンたちとの関係に亀裂が入る。都議選の前には、地方議員で異例のテレビ露出が続き、知名度を全国区にした音喜多氏が若干33歳で与党都議団の幹事長に就任したものの、野田氏との水面下での対立は継続。都議選後、音喜多氏は執行部を外されるなど冷遇されていた。
ただ、9月に入り、野田氏が突然代表を辞任。複数の政界関係者によると、野田氏は、小池新党の国政政党立ち上げを担っていた若狭勝氏との間でも権力闘争を繰り広げていたという。辞任の理由はここでは触れないが、結果的には、国政進出を加速させたい小池氏が野田氏を切る形となり、野田氏が都民ファーストの会の中枢から外れ、ファーストペンギンたちの“復権”も予測された。
それどころか、複数の政界関係者の話では、希望の党創立後の候補者擁立作業にあって、小池氏が東京1区に出馬しない場合のピンチヒッター候補として、音喜多氏の名前が浮上していた。彼の地元、北区を含む東京12区の前職は、公明党元代表の太田昭宏氏。公明党との決定的な対立を避けたい小池氏の意向から、12区には候補者を擁立せず、なおかつ、テレビでの知名度で、都心部の華やかな選挙区イメージにふさわしいことから、1区へのくら替えが検討されたとみられる。
その後、検討された擁立先が1区のままか、別の選挙区に移ったのかまでは確認していないが、いずれにせよ、音喜多氏本人もすでにブログで明らかにしているように、本人が国政進出を固辞。このあと、希望の党や小池氏サイドとの軋轢が積み重なって、昨日の結果になったようだ。
「小池劇場第3幕」のシナリオを狂わせるか?
今回の離党表明について、アンチ小池の人たちからは、2人に対しても「小池都政の製造者責任」を問う意見が出ている。これについては2021年の次の都議選まで(任期を勤めるのであれば)、その活動内容が厳しく問われた末に審判を仰ぐことになろう。
一方で、「小池劇場第3幕」ともいうべき、安倍首相の解散決断から始まる一連の歴史的政局において、今回の音喜多氏らの離党劇のインパクトは小さくないと思える。
とりたてて政治に深く関わっているわけではない、ごく一般的な年配の方々と政局談義をしていて、印象的だったのが、音喜多氏の離党がそれなりに話題になっていることだ。知名度がかつての「ブロガー議員」としての枠を超え、都議選前までに積み上げたテレビ的知名度がモノを言うようになっているのかもしれない。投票判断のメディア接触が、新聞やテレビを中心にしている中高年に対しても、相応の影響力や注目度が出ているように見受ける。
離党表明のタイミングは、小池氏に一撃を喰らわせる政治的効果を考えると絶妙だった。本人が離党の意思を固め切る前のことのようではあるが、離党を検討する旨の初報があったのは、希望の党の一次公認発表のタイミング。
そして、正式な離党表明をした記者会見での発信は「宣伝効果」が高い。(報道各社側の都合もあるだろうが)都庁クラブでの記者会見は民放各局が情報番組をオンエアしている午後3時台で、ライブ中継がされやすい状況。会見設定時間は実に効果的だった。このいまの政局の注目度で、日テレ、TBS、フジ同時オンエアとなった。この時間帯、自宅でテレビを見ている主要投票者の高齢者はネットをやっていなくても、会見内容から都民ファーストの会や小池氏の政治手法の問題を知ることになる。
そして、フリップを活用した会見でのポイント説明。拙著「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」(ワニブックス)でも取り上げたが、小池氏が昨年都知事選に出馬する直前、事務所費を巡る疑惑報道への釈明記者会見は、まさにこのスタイルだった。
もちろん、音喜多氏もテレビ慣れしているとはいえ、テレビをフル活用する小池氏のメディア戦術をこの1年あまり間近で見てきたことは、広報PR的発想を磨く上で最高の“生きた教科書”だったはずだ。希望の党にとっては、この記者会見だけでは致命傷にはならないが、小池氏のお株を奪うような形での記者発表を機に、党勢が伸び悩むとなれば、実に「皮肉」な展開といえる。
朝日新聞の最新の情勢調査(10月3、4日)では、比例区の投票先で、希望の党と答えた人は1ポイントダウンの12%。ただ、この調査は、音喜多氏の離党会見の前のことであり、今後、他社も含めた情勢調査の数字に新たな変化が出てくるのか、注視したい。
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最後に離党したお二人へ。与党会派としてどのような活躍をされるのか、政策をカタチにできるのか、注目していただけに残念です。しかし、アゴラにも寄稿いただいている側としては、足枷が取れたことでまた存分に発信いただければと思います。と同時に、音喜多くんは、それなりの知名度を持ち始めているわけだから、もう大樹の陰に寄らず、そろそろ自らが主導的に新たな道を切り拓いてはどうでしょうか。渡瀬裕哉さんがすでに3月の時点で離党を勧めていましたが、そこで提起していた「政治屋ではなく政治家」としての矜持を取り戻す機会を得たのだから。