トランプ大統領の対北威嚇発言は情報心理戦の一環

ホワイトハウスFacebookより:編集部

2003年、イラク戦争で、米軍は潜伏するフセイン大統領親衛隊(最大2万人超)に投降勧告のビラを大量散布した。 ビラの内容は「降伏する兵士は皆最大限優遇する」というもの。その結果、フセイン親衛隊の兵士も多く米軍に投降した。フセインは逃亡生活の末、国内の隠れ家の地下穴で米軍に拘束され特別法廷により死刑宣告を受け絞首刑となった。血を流さない情報心理戦が成果を挙げた実例である。

トランプ大統領は8月8日、「北朝鮮は世界が目にしたことのない炎と怒りに直面する」と発言して以降、国連総会の演説で北朝鮮の「完全破壊」に言及し、金正恩らの反発に対し「(ロケットマンの運命が)遠くない」と発言した。

トランプ大統領の厳しい発言は一見、過激に見える。しかし、軍将校経験の長い筆者が見れば外交・安保補佐陣の政策提言に基づいた情報心理戦の発言である事が分かる。即ち、北朝鮮社会に恐怖心と戦争への不安感を与え特権層に独裁者を自ら除去しなければならないという動機を付与した。でたらめ指導者を除去しなければ戦争で金正恩と共に滅びるという焦りと恐怖心の種を植え付けたのだ。

従って、金正恩は自身が健在だということをアピールするために異例に直接声明を発表した。今後も、米国は北朝鮮が挑発する度に最も厳しい言葉を投げかけ、制裁と圧力を強化して、北朝鮮社会に不安心理を造成しようとするはずだ。戦争への恐怖で北朝鮮社会を動揺させるのが狙いだろう。

人間は豊かな生活から急に貧困状態に陥ると、耐えられず自殺するケースが多い。厳格な制裁によって、北朝鮮国民の反政府的な雰囲気が特権層まで拡散し、その不平不満が金正恩の護衛司令部まで広がると、軍部が指導者に背を向け裏切りクーデター発生の可能性が高まるのだ。

過去の例を見ると、1989年、ルーマニアの独裁者チャウシェスク夫妻が革命軍により公開処刑され、リビアのカダフィー大佐も国民が独裁政権を倒したケースである。

北朝鮮は金一族の長期執権を守るために核を手放さないが、それが逆に体制崩壊を招く導火線に火を付ける蓋然性を高めているのだ。

(拓殖大学客員研究員・韓国統一振興院専任教授、元国防省北韓分析官)

※本稿は『世界日報』(2017年10月6日)に掲載されたコラムに筆者が加筆したものです。

韓国左派の陰謀と北朝鮮の擾乱
高 永喆
ベストセラーズ
2017-03-25