内閣府子ども子育て会議委員の駒崎です。
安倍総理が、幼児教育の無償化等に消費税の使途を変更するという名目で、解散総選挙に踏み出したのは皆さんご承知の通りです。
消費税を単なる財政再建ではなく、より子ども達のために、未来の投資に使おう。その志は良いと思います。
では、それは本当に「無償化」であるべきなのか。
残念ながら、答えはNOです。
無償化よりもむしろ「全入化」こそ、取り組むべきです。
今からその理由をお答えしましょう。
幼児教育は、高いのか
まず、現在の保育園の保育料を見てみましょう。
このように、世帯収入に応じて保育料は定められます。
生活保護世帯は無料で通えますし、年収300万円以下世帯も月1万円以下、と安価に通えます。
こうした仕組みを「応能負担」と言って、経済能力に応じて負担額が決められるので、貧富の差に関係なく保育を受けられるのです。
それもあって、厚生労働省の「平成24年地域児童福祉事業等調査」によると、児童1人あたり月額保育料では、「2万円以上3万円未満」が 31.9%と最も多く、次いで「1万円以上2万円未満」が23.6%となっています。1世帯の児童ひとりあたり月額保育料の平均値は20,491円です。
そう考えると、幼児教育にかかる経済的負担は現時点において過度な負担を強いているわけではありません。
問題はアクセシビリティ
保育園に入れない子どもは待機児童と呼ばれ、現在2万人ほどがカウントされています。
しかし、この数字は「申し込んだ人の中で」入れなかった人の数です。
現在、保育園は(都市部においては特に)フルタイムで働くことが前提になっています。
フリーランスで、週2だけ預けられたらな、と思って役所の窓口に行っても「認可はほぼ無理なので、認可外を探されてはいかがでしょうか」と言われて申し込みすらできないでしょう。
こうした申し込んで落ちた人だけでなく、入れるなら入れたい、というニーズを合わせると34万世帯にもなるようです。
通常保育(保育園)ですらこうです。では、それ以外の重要な保育サービスである、夜間保育・病児保育・障害児保育はどうでしょうか。
圧倒的に足りない保育サービスインフラ
飲食業や医療など、夜間に働かなくてはいけない方々には、お泊りも対応する夜間保育が必要です。
しかし、認可の夜間保育所は認可園と比較し0.3%しかなく、多くの親は質が良いとは言えない、ベビーホテル的託児所に預けざるを得ない状況です。
子どもが熱を出した時に預かってくれる病児保育はどうでしょうか。
これも施設数は認可保育所のわずか3.5%にとどまり、ニーズに比してキャパシティは約2%程度になります。(出典 http://sickchild-care.jp/other/7729/)
障害児保育はどうでしょうか。発達障害児などの受け入れは徐々に進んできましたが、重症心身障害児や医療的ケア児の受け入れは非常に厳しい状況です。
横浜市の調査では、わずか8.4%の障害児の母親しかフルタイムで働けていません。
( 出典:横浜市こども青少年局「障害者と家族の生活状況報告」)
こうした状況を見ても分かる通り、優先すべきは無償化よりも、必要な保育サービスをいつでも誰でも受けられる「全入化」なのです。
無償化予算の一部で可能に
内閣府の試算によると、幼児教育を所得に関係なく無償化すると1.2兆円かかります。
一方で、世帯年収360万円以下に絞れば、0~2歳児で500億円だということなので、入所率を勘案して全年齢にしても2000億円程度だと推測できます。
とすると、残り約1兆円ほどを「全入化」に振り向けることができます。
30万人を預かるためには、1人あたり保育コストを141万円と仮定して、約4200億円。
(出典:東久留米市 保育所の運営にかかる経費)
残り6000億円あれば、病児・障害児・一時・夜間保育等は十分ニーズ分を満たす整備が可能です。
まとめ
幼児教育は保育園や幼稚園だけを整備すれば良いわけではありません。
フルタイムの人だけでなく、パートやフリーランスの人が利用する一時保育サービスも、その一端を担うものです。
また障害児にも保育・幼児教育は必要ですし、子どもは病気をすることもあるので、そこでも病児保育は必要です。
夜に働く家庭には、夜間保育で下支えしていく必要があり、そうした家庭にも保育・幼児教育は当然必要です。
こうした保育サービスインフラが決定的に欠けているのだから、まずは無償化よりも「全入化」。
でなければ、無償化してニーズが激増し、さらにインフラが足りなくなる、という地獄絵図が待っていることになるでしょう。
安倍総理。子ども達に消費税増税分の使途を組み替える、というところまでは良いです。しかしその使い道は、単なる無償化にしてはいけないのです。
いったん立ち止まって、優先順位をしっかりつけてください。
でなければ、何のための解散か、解散してまですべきことなのか、そのどちらの問いにも答えられなくなってしまうのですから。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年10月7日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。