希望の党の公約の「ユリノミクス」と称する経済政策の目玉は、消費税の増税分5兆円を凍結して「内部留保」に課税することだが、実はもっと大きな公約がある。ひっそり「ベーシックインカム導入により低所得層の可処分所得を増やす」と書かれているが、これは国政政党としてBIに言及した初めてのケースだ。
今まで共産党でさえBIは公約しなかったが、それには理由がある。BIはすべての国民に定額の現金を支給する制度だから、莫大な財源が必要になるのだ。記者会見では「BIは年金などを置き換えるということなら全国民を対象とするという理解でいいのか」という質問に、小池氏は「AIからBIへ」と意味不明の答をしている。これはブレグマンの話を聞きかじったのだろうが、彼の提案の最大の欠陥は財源が何も書いてないことだ。
記者会見では後藤祐一氏が「基礎年金、生活保護、雇用保険などを[BIで]置き換えていくことを検討している」とフォローしたが、その額がいくらか彼は知っているのだろうか。2015年度の基礎年金の歳出は23.4兆円、生活保護は3.7兆円、雇用保険は1.2兆円である。合計28.3兆円を廃止してBIに置き換えると、1億2700万人の国民にひとり年額22.5万円のBIを配ることができるが、これでは最低限度の生活を送ることはできない。
すべての国民に(今の国民年金と同じ)年額78万円のBIを支給するには、99兆円の財源が必要になる。この場合は負担を「社会保険料」として求めることもできないので、税に変えるしかない。それを所得税に置き換えるのがフリードマンの負の所得税だが、消費税に置き換えることもできる(2008年の米大統領選で共和党のハッカビー候補が提案した)。
所得控除をBIとみなして所得税額を変えないとすると、基礎年金と生活保護と雇用保険を廃止した上で、残りの約70兆円を税でまかなうことになる。消費税だと約30%の増税が必要だ。もちろんこれは荒っぽい目安だが、対応関係は同じである。BIを支給するには、既存の社会保障を廃止して巨額の増税をするしかない。
BIは所得再分配としては合理的で、児童手当や「教育無償化」なども、このように非裁量的な所得補償にすることが望ましい。金持ちの老人に年金が必要ないのと同じく、金持ちの子の教育費を無償化する必要はない。所得が少なくて困っている人には最低所得を保障し、使い道は個人が考えればいいのだ。
いずれにせよ巨額の財源を必要とするBIが「消費税の増税凍結」と両立しないことは明らかだ。小池氏がそれを理解した上で提案しているのだとすれば有意義な提案だが、彼女は何も知らないと思う。