自民党と希望の党の医療政策は?健保解散危機にどう立ち向かう

自民党、希望の党政策パンフレットより(編集部)

衆議院の解散が宣言され、民進党が一部希望の党に合流し、情勢は激動を極めた中で、総選挙公示日を迎えました。今後の医療政策がどうなるのか、一医師として、また、医療政策をたえまなくウォッチする者として気になるところです。

自民党の社会保障政策として特徴的なのが消費税引き上げと、それに伴って行うとされる保育、教育の無償化を中心とする全世代型社会保障で、対する希望の党や立憲民主党は消費税増税延期を訴えています。希望の党はベーシック・インカムに言及しています。両者の社会保障、経済政策ではアゴラでも小黒一正氏による大変わかりやすい優れた論考が掲載されています。

財政赤字の拡大幅、「7兆円―2兆円vs 5兆円」という究極の選択か

いずれの政党が政権をとることになっても、医療や介護に関しては逼迫した問題が山積しています。去る9月25日、健康保険組合連合会(健保連)は、企業が社員向けに運営する健康保険組合の4分の1を超える380組合が、財政悪化により2025年度に解散危機を迎えるという試算を発表しました。このニュースは、7月より何度か報じられています。

健保組合の2017年度予算は、全体で7割が赤字予算、赤字は前年度に比べて1668億円増の3060億円となり、高齢化に伴って、財政は悪化の一途を辿っています。解散危機を迎えた健保組合は、全国健康保険協会(通称「協会けんぽ」)に吸収されることが予想され、「協会けんぽ」には公的資金が投入されているので、国庫の負担が増大することが予想されます。

1.健保組合とは何か。

自営業者やフリーランスは国民健康保険に加入しており、自治体から医療費の相当の割合が支払われていますが、企業に勤務する人は、それぞれの企業が提携する健康保険組合に加入しています。保険証の「保険者」欄をご覧になったことはあるかと思いますが、そこに長々と、健康保険組合の名前が書かれています。

いちばん有名なのは「協会けんぽ」で、以前は社会保険庁によって運営されていた、主として中小企業を対象とする「政府管掌健康保険」が平成20年に民営化されたものです。われわれが医療機関にかかると、3割負担の場合は3割を自費で支払い、残りを健康保険組合が負担します。保険料率(標準報酬月額に占める保険料の割合)は、医療費の増大に伴って上昇を続けています。また、協会けんぽの国庫負担率も、昭和48年には10%であったのが、平成22年度には16.4%と増加の一途を辿っています。

このように悪化している健康保険組合の財政ですが、われわれが健康保険組合に加入するときは、就業先により自動的に決まっており、自分で選択することができません。当たり前のようにも思われているこのシステムですが、実は、国民皆保険に近い制度をとっている国でも、健康保険組合の加入先を選ぶことができる国もあります。

2.競争原理の導入は将来行われる?

ドイツはおおむね国民皆保険とみなされる国です。日本の保険制度は、ドイツを手本として作られました。ドイツでは、公的な保険者である疾病金庫と被保険者との関係が日本とは異なっており、被保険者が公的な疾病金庫の選択が自由にできることにより、疾病金庫間の競争が行われています。欧州諸国の医療は、アメリカのように自由経済ではありませんが、90年代から、医療の質の適正化と無駄の削減を目的として、市場原理を導入した医療制度改革が進みました。

従来ドイツでも、居住地や勤務先などによって加入する保険者が決まる仕組みだったのですが、1993年に医療保障構造法により、被保険者による保険者の選択幅が大幅に広がりました。また、2007年メルケル首相は公的医療保険競争強化法によって、選択タリフの導入がおこなわれ、被保険者がより高い金額を支払って高い給付を受けるか、より低く支払って低い給付を受けるかの選択ができるようになりました。また、一定期間給付を受けない被保険者には報奨金を支払う仕組みのある保険者もあります(日本の民間医療保険に似ているかもしれません)。2009年より、被保険者は公的な疾病金庫と民間医療保険の選択も可能になっています。

このように競争原理を導入したドイツですが、加入者の恣意的な選別など不公平な競争が行われることがないように、加入者のリスクに応じて調整が行われています。

健康保険組合の維持がますます困難になるであろう日本でも、自治体などの公的な保険者間あるいは、公的保険と民間保険との間の部分的な競争原理の導入が必要になるかもしれません。

自民党政権の下、厚生労働省は来るべき超高齢化社会に向けて、病院再編や地域包括ケアシステムの実現などの改革を着々と進めています。自民党の医療政策には、保険に関しての競争原理導入の記載はなく、希望の党の公約についても、従来の野党が求めてきた分配型のシステムとはやや毛色が違うように見えますが、競争原理に基づいて自民党よりも小さな政府を目指すのか、あるいはこれまでの野党同様もっと大きな政府にしてゆくのか、その目指す方向ははっきりしません。

とはいえ、各党の政治家には、医療財政の現状を踏まえて、さらなる改革をすすめていってもらいたいものです。

また、希望の党に関しては、特に目を引く医療政策として、「遺伝子データ分析の改善により、将来かかりやすい病気を集中予防し、医療費を削減する」というものがあります。日本では、実現には色々と難題があるかと思われますが、これについては、選挙期間中に別稿で述べようと思います。