日米欧で最多の日本の選挙の弊害

公約乱発で財政赤字は拡大

衆院選が告示され、選挙公約の検証、再編された野党への注文、獲得議席の予想などが関心を集めています。何かもっと重要な論点を忘れてはいませんかと、問いたいのです。日米欧の中で国政選挙は日本が突出して多く、その結果、選挙公約は乱造され、財政は選挙対策に使われ、財政赤字が拡大するという構図です。

選挙が多い理由の一つは首相の解散権(憲法7条)です。政権に都合のいいように使われているとか、不意打ち解散はけしからんとか、議論はされています。日経の経済教室(4日)でも、野中学習院大教授が「不意打ち解散の本家だった英国では、6年前に法律で禁止(規制)された」と、指摘しています。解散には下院議員の3分の2以上の賛成が必要になり、日本もどうにかしたらどうかという問題意識です。

ではいったい、日本ではどのくらい、国政選挙が行われているか。日経のコラム「大機小機」(7日)が簡潔に触れています。「日本衆参両院の国政選挙は、この10年で今回を入れると、7回目」といいます。同じ期間に英独は3回、仏大統領・議会選は2回、米は大統領・議会選は3回、中間選挙は2回で、日本は突出しています。

年中行事化する日本の選挙

12年12月の衆院選(安倍首相の政権復帰)、13年7月の参院選(衆参ねじれ解消)、14年12月の衆院選(自公で3分の2獲得)、16年7月の参院選(自公維で3分の2獲得)、そして今回の17年10月の衆院選です。5年で5回です。衆参両院の役割が接近し、参院も首相の選出、信任に大きな影響力を持つようになっています。そのほか、都知事・議員選挙などの地方選も国政を左右するようになり、選挙の年中行事化が進んでいます。

選挙は民主主義の基本で、選挙の意義を否定する人はいません。問題は、こんなにしばしば選挙をやっていると、マイナス(負)の効果が大きくなるのではないかということです。与野党は選挙公約を、十分に練り上げたうえで掲げるのではなく、有権者に受けのいい公約を打ち出すポピュリズム型の傾向が強まっています。

メディア、識者、学者、専門家は日本の選挙の多さに伴う弊害をあまり指摘しません。国際比較して日本の選挙を考えてみるより、国内の目先の問題に気を奪われるせいでしょうか。慶大教授・作家の荻野アンナ氏の指摘「公約をじっくり読ませてもらう。各党の公約をすり合わせて判断する」(読売新聞、9日)は平均値でしょう。

目標すぎないのに選挙公約という

不意打ち解散で野党は準備不足で選挙に臨みます。自民党も安倍首相の意向が絶大ですから、党内で充分に議論しないまま、消費増税の使途変更、全世代型社会保障制度などを掲げました。選挙公約は民主党政権当時の過去を振り返っても、いかに当てにならないかが分かります。ついでにいえば、約束事を意味する公約なのに、単なる政策目標にすぎません。メディアは公約という表現をやめるべきです。

先ほどの「大機小機」氏は「国家指導者を選ぶ機会が4,5年に1度しかなければ、有権者は候補者が約束する政策の中身をもっと吟味するようになる」と、指摘しており、私は賛成です。もっとも大統領選は4年に一回の米国でも、トランプ大統領は実現が難しい公約を乱発しています。世論調査で常時、政権に対する評価が出てしまうネット時代の影響が大きいでしょうね。

票欲しさで財政膨張が進む

とにかく選挙のやりすぎです。経済の成長力が落ち、その分を財政膨張、金融拡大でカバーしようとします。必要な財源を国債発行に頼り、増税を回避しようとしますから、財政危機はどんどん悪化します。

今回、安倍政権が消費税10%を約束したものの、国債償還を減らし、歳出にも振り向けるといったのは、そういうことです。与党以上に厳しいことを言えない野党は、消費税凍結というさらに安易な道を選びました。希望の党は企業の内部留保への課税を打ち出しました。税法違反になりかねない法人への二重課税にあたります。

第二次安倍政権が誕生する前、毎年のように首相がころころ変わるのは、国政選挙が多すぎるからだと言われたりしました。第二次安倍政権は5年の長期にわたっています。しばしば選挙をしている印象を受けるのは、3年に一回ある参院選が政権選択に大きな影響を持ってしまっているからでしょう。

選挙報道、論評は公約の是非、議席予想、安倍政権継続への影響、野党再編の批判ばかりでなく、民主主義のためには、どのような選挙のあり方が望ましいのか、広い視野からの問題提起をお願いしたいですね。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年10月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。