メルケル独首相は8日、ベルリンの与党「キリスト教民主同盟」(CDU)本部で姉妹政党でバイエルン州地方政党「キリスト教社会同盟」(CSU)と首脳会談を開き、その後開かれた記者会見で「ホルスト・ゼーホーファーCSU党首から要求があった難民受け入れ最上限の設定問題で妥協が成立し、人道的理由による難民受け入れを年間20万人以内に抑えることになった」と公表した。
メルケル首相が難民の受け入れで明確な数字を提示したことは今回が初めて。独週刊誌シュピーゲル誌は「一種の最上限ライトだ」(eine Art Obergrenze light) と報じている。「最上限」という言葉こそ使っていないが、実質的には最上限の設定を意味するからだ。なお、20万人の中には欧州連合(EU)や他の外国からの移民労働者の数は入っていない。
ドイツでは2015年、シリアやイラクなどから100万人以上の難民・移民が殺到した。メルケル首相は“難民歓迎”政策で受け入れたが、治安の悪化、テロの発生などを受け、ドイツ国民の間にメルケル首相の難民ウエルカム政策に批判の声が高まった。オーストリアとの国境を接するバイエルン州では難民の殺到に直面し、メルケル首相の難民政策に厳しい非難が飛び出した。ゼ-ホーファーCSU党首はCDUとの連立参加条件として、難民受け入れの上限設定を要求してきた。
CDUとCSUがここにきて急きょ歩み寄った背後には、2013年に結党した極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が反難民政策をアピールし、連邦議会選で得票率12.6%、94議席を獲得、第3党に大躍進したことへの危機感があるはずだ。
難題だったCSUとの合意を受け、いよいよ第4次メルケル政権の組閣の動きが活発化する。メルケル首相は連邦議会選挙(下院)の結果を受け、野党「自由民主党」(FDP)と「同盟90/緑の党」の3党連立政権の組閣を目指して2党と連立交渉を始めることを正式に表明し、「連立交渉の結果は特別党大会で採決する」と述べている。具体的には、今月18日に両党代表と個別で交渉し、20日に3党代表の全体会合が開かれる予定だ。ただし、3党の連立交渉は容易ではないと受け取られている。
なお、CDU・CSUとFDPと「同盟90/緑の党」との3党連立連合は党のカラー、黒・黄・緑がジャマイカの国旗と同じことから、通称ジャマイカ連合と呼ばれる。
「同盟90/緑の党」のジモーネ・ペーター党首は8日、CDUとCSUの合意に対し、「人道的な理由から受け入れる難民の数を年間20万人に抑えることは最上限の設置を意味する」として既に反対を表明している。「同盟90/緑の党」と同様、難民受け入れの上限設定に反対してきたFDPは、「CDUが専門職の移民を受け入れる移民法を考えていることは良きニュースだ。わが国は専門職の労働力が不足しているからだ」と、CDUとCSUの合意に一定の評価を下している。
なお、メルケル首相はこれまで大連立を組んできた社会民主党(SPD)との大連立の可能性については、「SPDは目下、政権担当の能力がない」と指摘し、SPDとの大連立政権の再現には否定的な姿勢を示した。ちなみに、マルティン・シュルツSPD党首も選挙直後、「わが党は野党の道を行く」と述べ、メルケル政権に参画しない姿勢を明らかにしている。ちなみに、メルケル首相は選挙前から左翼党とAfDとの連立は拒否してきた。
安定政権の確立を最大課題に掲げるメルケル首相は、政策や閣僚分担で妥協を強いられたとしても、ジャマイカ政権の誕生を目指すとみられている。「メルケル首相のための選択肢」は限られているからだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年10月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。