図書館は文庫本を貸し出すなと要求する文芸春秋

山田 肇

図書館での文庫本貸し出し中止を文芸春秋の松井清人社長が全国図書館大会で要請した。図書館大会の公式ページで松井氏の予稿を閲覧できる。松井氏は文庫本貸し出しが出版市場縮小の一要因と考えているようだ。

文庫本貸し出し中止は多くの問題を引き起こす。

図書館予算には制限があるので、文庫本の購入を中止しても単行本の購入が飛躍的に増えるわけではない。単行本は単価が高いから、今までの文庫本と単行本の合計よりも購入数は必ず少なくなる。これが書籍は売れないという傾向に拍車をかける。

本棚を文庫本用から単行本用に置き換えると一館で収納できる書籍の数は減少する。図書館利用者は多様な書籍に触れる機会が失われる。

松井社長の要請を伝えた朝日新聞は「出版社は、小説などを雑誌で連載し、単行本にまとめ、文庫化することで、費用を回収する。」と書いている。松井氏の予稿にも同様の説明がある。しかし、雑誌のバックナンバーは探すのが大変で、単行本も増刷されるものは少ないから、収蔵した雑誌や単行本がボロボロになっても買い替えできなくなる。結果として図書館で貸し出し可能な書籍数は減少する。

松井氏は「文庫は自分で買うという空気が醸成されることが重要」と主張しているが、図書館で気楽に読書を楽しむ習慣が失われてよいのだろうか。松井氏自身「本の面白さを教えてくれたのは,間違いなく図書館です。」と予稿に書いているが、それが失われてしまうのだ。読書習慣がなくなれば書籍はますます売れなくなる。

全国図書館大会では、慶應義塾大学根本彰教授が図書館は出版物販売に負の影響は与えていないという計量経済学に基づく研究結果を紹介している。僕もアゴラに記事『再度、図書館問題について 貸し出しは販売に影響を与えるか』をアップして、これらの研究成果を紹介したことがある。

朝日新聞によれば「文庫は「収益全体の3割強」(松井氏)など、収益の柱だ。」そうで、松井氏はそれが失われると危惧したようだが、主張は論理性に欠ける。