小池百合子氏はなぜヒトラーになれなかったのか

希望の党は9月下旬には「政権交代」をうかがう勢いだったのに、今週の情勢調査ではほぼ立憲民主党と並んでしまった。産経によると、都議選まで高い支持率を得ていた小池百合子都知事の支持率も66%から39%に急落し、バブルが崩壊した。彼女は一部の人の恐れていた「ヒトラー」にはなれなかったのだ。

そのきっかけとしてよくいわれているのは9月29日の「排除」会見だ。これは上のように「前原代表をだましたのでしょうか。共謀してリベラル派大量虐殺とも言われているんですが…」というフリーライターの質問に、笑顔で「排除をされないということはございませんで、排除いたします」と答えたものだ。

これ自体は当たり前のことで、政策の一致しない政党が無条件に合流することはありえない。こういう「排除の論理」は1996年の民主党結成のとき始まったもので、民進党の前原氏も左派の排除はねらっていたと思われるが、彼女はかなり厳格に(というか彼女の好みで)選別し始めた。

これによって排除される側の枝野幸男氏が10月2日に記者会見し、立憲民主党の結成を宣言した。このときは彼の表情にも悲壮感があり、立民党は泡沫政党になると思われた(私もそう思った)が、この直後に希望の党の支持率が暴落した。そこに因果関係があるとすれば、原因は彼女の政治手法にあると思う。

前にも書いたように、彼女の手法はヒトラー的である。それを「ファシズム」と呼ぶのは正確ではなく、むしろどこの国でも現れるポピュリズムのドイツ的形態と考えたほうがよい。ヒトラーの手法は、次の3法則に要約できる:

  1. つねに敵をつくり、自分たちがその犠牲者だと強調する
  2. 圧倒的多数の民衆は、女性のように論理ではなく感情で動く
  3. 同じ話を1000回くり返して初めて民衆は理解する

今年初めまで彼女の敵は石原慎太郎氏であり、7月の都議選では「都政のドン」内田茂氏だった。そのつど猪瀬直樹氏のような応援団が出てきて、都政の「しがらみ」を糾弾した。それはすべて間違いとはいえないだろう。プロの詐欺師は、100%の嘘はつかない。嘘がばれるころには別の嘘をつく。それが今度の総選挙だった。

希望の党の政策がナンセンスであることはわかっていたが、ワイドショーが興味をもつのは政策ではなく、「敵か味方か」という政局だ。政治は佐々木俊尚氏のいうような「多様性を中心にしたリベラリズム」では動かない。よくも悪くもカール・シュミットのいうように、共通の敵をつくって味方の同質性を作り出すことが政治の本質である。

この点で彼女の戦術は正しかったが、最大の失敗は枝野氏を「犠牲者」にしたことだった。政策がないのは立民党も同じだが、そんなことは圧倒的多数の民衆にはわからない。小池氏が敵であることは明らかなので、敵の敵は味方である。彼女が新たな敵をつくる時間はもう残されていない。