ライアン航空に勤務した経験のあるパイロットの告白

公式Facebookより:編集部

ライアン航空の多数のパイロットが他社に移ったことが一番の要因とされている同社の来年3月までの凡そ2000便のフライトのキャンセルは同社への信頼を傷つけている。しかし、フライト料金の安さとヨーロッパ圏内で網のように張りめぐらされた飛行ルートの多さは他社とは比べものにならず、相変わらず乗客利用者数ではトップを維持している。

その一方で、2000便のフライト・キャンセルをより少なくするための策も講じている。そのひとつが「特別手当を出すから機長と副操縦士は休暇を返上して勤務に復帰するように」という呼びかけであった。しかし、パイロットの方ではそれを受け入れる姿勢は見せていない。理由は、いつも悪い待遇を凌いで来たパイロットの方ではフライトの運行に支障が出ているからという経営者側の訴えに素直に応じられないということなのである。一方、経営者側では不足のパイロットを補充するために新規のパイロットも採用している。

経営者側ではパイロットとの葛藤が利用客に知られることを嫌い、それをうまくベールに包むかのように次のような声明をオレアリー社長は発表した。「(予定されているフライト・キャンセルは)1億2900万人の利用客の1%を超えるほどのお客への迷惑にはならない」「パイロットが勝ち得た当然なる年間の休暇を(フライト・キャンセルを減らす目的で)11月から1週間返上する必要がないようにした」「これによって、成長は少し緩やかになるが、現状の優秀なるパイロットの勤務体制で進めることにした」と。

11月からは現体制の400機以上の機材から25機を外すとしている。それはライアン航空が使っている200の空港から一日に1便が減少するような割合になるとしている。

また、今回のキャンセルの決定を早急に発表したことには、その背後に別の意味もあるという。チケットを既に予約購入している利用客に対し、賠償金の支払いを避ける為である。即ち,2週間以上前にキャンセルを利用客に通達しておけば、別のフライトに変更するか、或いは利用客の方で購入したチケットのキャンセルを望む場合はチケット料金の返金だけで済むからである。損害賠償金を支払う必要がないのである。

10月末までのキャンセルで被害を受ける利用客に対しては、大半がフライトの変更か返金を既に済ませたという。そして、彼らには10月に予約をすれば同月から来年3月までの期間にフライトできる往復80ユーロ(1万400円)の旅行クーポン券を無料提供したという。

スペインは英国に次いでライアン航空が最も成長している国である。その関係から、ライアン航空のフライト・キャンセルに関係した報道はスペイン各紙が競って情報を提供している。その中で9月25日付『El Mundo』がライアン航空からノルウェジアン航空に移籍したひとりの若いパイロットがライアン航空の内部事情を語った記事を掲載した。その一部を以下に紹介しよう。彼の名前は匿名でカルロスとつけられた。

カルロスがライバルのノルウェジアン航空に移籍した理由を次のように語っている。「ノルウェジアン航空に移ることを決めたのは、(ライアン航空では)バスの運転手よりも酷い待遇を受けていたからだ。友達があそこ(ノルウェジアン)に勤務していて、試して見てはどうかと勧められた」「スペインで普通の契約ができ、あそこより少ない時間勤務だが、より稼げるようになるし、悪い待遇ではないと言われた」「オンランでまずテスト、その後スカイプで面談。それからオスロに行って必要なことをすべてそこで行った」「滑り出しは良かった。それで(ライアン航空の)旧仲間にも話したのだ」と。

ライアン航空の経営者側では移籍しようとする彼らの動きをキャッチしたのか、「ノルウェジアン航空は倒産間近かだ」といって彼らに不安を投げかけたそうだ。しかし、カルロスの旧仲間もノルウェジアン航空に移籍したのであった。結局、ライアン航空から140人のパイロットがノルウェジアン航空に移籍したことが報道で取り上げられたが、その70人はスペイン人パイロットだという。その切っ掛けを作ったのがカルロスだった。現在、ノルウェジアン航空で選考過程を受けている(ライアン航空の)パイロットがまだいて、その数は更に増えるとカルロスは指摘している。

更にカルロスが語ったことを以下に要約しよう。

ライアン航空では時間給70ユーロ(9100円)で諸経費は全てパイロットの負担になるという。ノルウェジアン航空では機長は8500-9000ユーロ(110万円―117万円)そして副操縦士は5500-6000ユーロ(71万5000円―78万円)>が給料になるそうだ。それがライアン航空ではカルロスが機長として8000ユーロ(104万円)を稼ぐ時もあれば3000ユーロ(39万円)の時もあったという。稼ぐ時と稼がない時の落差が大きいのは、ライアン航空の場合、観光シーズンだとフライト便が急増することからパイロットもより多く稼ぐことが出来るが、オフシーズンとなるとフライト便も減るというのが理由だという。

機材がアイルランドで登録されているということから、カルロスのようにスペイン人は社会保障費を払うことなく8か月勤務していたそうだ。その不満を執拗に会社側に訴えてからは、スペインで社会保障費を支払えるようになったそうだ。その為に、ライアン航空では社員3人があたかも会社を設立したかのようにして、その会社にライアン航空はブローカーを介して契約するという形にするのだそうだ。このような書類上の調整によって、カルロスはスペインに在住しているということからスペインで社会保障費を支払えるようになったという。社会保障なしで、8年とか9年勤務しているパイロットもいるそうだ。この場合、社会保障費を支払わない分だけ本人の負担は少なくなるが、定年後の年金を貰うことはできない。

地上勤務のスタッフの場合はマドリード空港で働いていても契約はあたかもアイルランドで働いているかのような契約になっているという。労働検査官が空港に調査に来れば、これからフライトに乗る予定だと言って、あたかもマドリード空港で勤務してはいないような振舞いするようにと経営者側が要求するのだという。

「アイルランドの航空連盟にライアン航空は社員との契約について違法的な処理をしていると訴えても、同国の8割の航空業界を支配しているライアン航空の内部にまで同航空連盟が立ち入ろうとはしないと言うのが実情だ」とカルロスは指摘した。また、「ライアン航空について書類上の調査をしようものなら、それは爆弾に触るようなものだ」とカルロスは述べている。

このような違法行為を実行するのもコストダウンを図ろうとするライアン航空の経営ポリシーなのである。