極右政党が連立交渉で「内相」を要求

オーストリアで19日、国民議会選挙の最終結果が公表された。郵送分の投票集計の結果、第2党と第3党が入れ替わり、ケルン首相の社会民主党が野党第1党の極右政党「自由党」を抜いて第2党に入った。同国の政界は、第1党の国民党のクルツ党首(外相)が20日、バン・デア・ベレン大統領から組閣要請を受け、安定政権発足のための連立交渉に入る予定だ。

▲記者会見で内相ポストを希望する意向を表明するシュトラーヒェ党首(中央)=2017年10月18日、自由党公式サイトから

▲記者会見で内相ポストを希望する意向を表明するシュトラーヒェ党首(中央)=2017年10月18日、自由党公式サイトから

それに先立ち、自由党のシュトラーヒェ党首は18日、党幹部会後の記者会見で、「わが党の立場に変化はない。全ての政党と交渉する用意がある」と強調する一方、「連立政権に参加する場合、党としては内相ポストが政権参加の条件となる」と述べた。同党首自身が内相の地位に就く考えだという。

同党首はその理由として、「自由党は安全問題を考える政党だ。もちろん犯罪対策もある」と説明した。連立交渉で内相ポストを求める政党は確かに珍しい。多くは外相、財務相、法相の主要ポストを交渉相手に求めるケースが多いからだ。

自由党はなぜ内相ポストに拘るのだろうか。華やかな外相や経済相のポストも交渉次第では手に入る状況だ。なぜならば、自由党が“イエス”と言わない限り、国民党も社民党も連立政権を発足できないからだ。自由党は連立交渉では自党を高く売りつけることができるのだ。

そこで自由党が連立政権に参加する2通りのシナリオを検証してみた。
第1党のクルツ党首の国民党と組む場合、国民党は自由党に外相のポストを提供したとしても、警察権を有する治安機関の内相を与えるだろうか。国民党は社民党との連立政権でも内相の地位を確保した。内相ポストの重要性を熟知しているからだ。クルツ党首が首相となる以上、自由党にも何らかの重要閣僚ポストを提供する必要が出てくるから、首相の次の閣僚ポストとなれば、外相か財務相だろう。にもかかわらず、シュトラーヒェ党首は内相に拘るのだ。

一方、社民党の場合、第2党となった社民党のケルン党首を首相にするのだから、自由党は国民党との交渉以上に多くの要求ができるはずだ。日刊紙エステライヒは「外相に自由党大統領候補者だったホーファー氏、内相にシュトラーヒェ党首、そして財務相にオーバーエステライヒの自由党党首。そして法相に自由党のイデオロギー担当のグラーフ議員といった具合に、主要閣僚ポストをことごとく自由党に譲る可能性がある」と報じているほどだ。

両シナリオとも、自由党は内相ポストを狙っている。そこでもう少し、自由党が内相を欲しがる背景について考えてみたい。
内務省は殺到する難民・移民の最初の対応先だ。不法難民の強制送還も担当する。すなわち、自由党は内相を手に入れ、これまで以上の強権を駆使して難民・移民対策に乗り出すために内相ポストを欲しがっていると考えられるわけだ。
社民党と国民党の大連立政権では、後半クルツ外相が難民対策を実施するまでは多くの難民・移民を受け入れてきた。強制送還もあまり実行されなかった。自由党は内相ポストを握り、厳しく違法な難民・移民の規制に乗り出す意向というわけだ。

自由党の内相が就任した場合、外国人排他主義はもっと強まるだろう、という懸念には一理ある。特に、イスラム系難民・移民に対して、自由党はこれまでも厳しい批判を展開し、欧州のイスラム化を強く警告してきた政党だ。
ちなみに、同国では首相は各省の閣僚の決定を覆す権限を有していない。閣僚が主体的にその権限を発揮できるから、内相が強権を振った場合、それにブレーキをかけることは難しい。

自由党は1983年、シュテーガー党首時代に社民党主導の、2000年にはハイダー党首時代に国民党主導の連立政権にそれぞれ参加したことがあるが、内相ポストを連立条件とした自由党党首はシュトラーヒェ党首が初めてだ。それだけに、同党首は明確な目的を持っていると推測して間違いないわけだ。

自由党は野党時代、ネオナチ政党、外国人排斥政党、反イスラム政党と受け取られ、時には内務省の監視を受けてきた経緯がある。クルツ党首主導の連立交渉が始まれば、その動向に注意を払う必要があるだろう。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年10月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。