「ネットはフェイク」とケンカを売る新聞業界

山田 肇

新聞週間に合わせて日本新聞協会は第70回新聞大会を開催したが、白石興二郎会長(読売新聞グループ会長)のあいさつは首を傾げさせるものだった。白石氏は次のように話している。

各社がこれまで積み重ねてきた正確で多様な報道によって新聞の信頼度が維持されている日本でも、ネット上には真偽不明の情報が現れ、拡散され続けています。今年の新聞週間の代表標語には、「新聞で見分けるフェイク知るファクト」が選ばれました。確かな取材で真実を見極めて国民に提示するのは報道本来の役割にほかなりませんが、これまでにも増して報道の力を発揮し、読者からさらに厚い信頼を得ていかなければなりません。

新聞の信頼は維持されているだろうか。ネットには真偽不明の情報があふれているだろうか。新聞でフェイクが見分けられるのか。

新聞通信調査会による『第9回メディアに関する全国世論調査(2016年)』は「新聞は2008年度調査開始以来最低の信頼度得点となった。」と指摘している。業界べったりの調査会でも信頼度低下に言及せざるを得なかったのだ。白石氏はあいさつの中で「無読層は40代にも広がりつつあります。」と言っているが、新聞協会の統計でも購読数の減少が続いている。信頼の低下が無読化に結びついているのではないか。

ネット上の真偽不明の情報がフェイクニュース問題の焦点だろうか。トランプ大統領が指摘するのは既存メディアの偏向であり、こちらが本質ではないのか。わが国でも既存メディアによる「報道しない自由」を批判する意見が多数ネット上に出ていることを白石氏が知らないはずはない。

朝日新聞大阪版は『声欄』に新聞週間にちなんだ投稿を掲載した。表題を並べると次の通り。「社説に共感、投票前に熟読中」「庶民の味方、もの言い続けて」「校閲すごい、一番のきょう味」「読み手意識、投稿で作文学ぶ」「日本と世界、行く末見つめる」。なぜ、朝日新聞の報道姿勢を批判する声は掲載しないのだろう。『声欄』全体が「お手盛りの自画自賛」のフェイクでなければよいのだが。

白石氏はあいさつの中で消費税率引き上げ時には新聞に軽減税率を適用するように求めている。新聞には公共的な役割があるというのが軽減税率の理由である。しかし、新聞に対する信頼の低下という現実を経営者が直視しないのであれば、軽減税率の適用など論外である。