きょうの総選挙は自公で2/3を維持しそうで、小池百合子氏の逃亡した希望は惨敗、「劣化社会党」の立民が野党第一党と、政治は退化してしまった。これで憲法改正は視野に入ったが、それより大きな問題は、日本の政治にまともな選択肢がないことだ。8月の記事の図を更新すると、今の対立軸はこんな感じだろう。
日本には小さな政府を志向する保守政党がないという傾向は、今度の選挙の公約でますますはっきりした。消費税を予定通り上げる(一部は流用する)自民党と、それに全面的に反対する野党という対立は、世界的にみると珍しい。アメリカでも医療保険や減税をめぐって対立が繰り返されているように、大きな政府か小さな政府かが主要な対立である。
日本でそういう対立が成り立たないのは、国債発行の歯止めがなくなったからだ。今までは社会保障支出の赤字を「社会保障関係費」と称して一般会計で埋め、それを国債でファイナンスすることによって給付を増やすことができた。社会保険料の負担も増えて税を上回ったが、「痛税感」がないので政治的には容易だった。
しかし状況は変わりつつある。厚生年金の事業者負担は、法人税を払っていない赤字企業にもかかるので財界の反対が強まり、厚生年金保険料の増加は18.3%でいったん止まる。今後は健康保険や介護保険の負担が大きくなるだろう。日本は国民負担率が6割を超える世界最大級の政府になるのだ。
日銀は徐々にテーパリングを始めたので、国債の増発は困難になってきた。社会保険料が上げられなくなると増税しかないので、現実には小さな政府という選択肢はなく、可能なのは今も将来もほどほどに大きな政府か、それとも今は小さく見えるが将来はるかに大きな政府かという選択である。
消費税の増税に抵抗してきた日本国民は後者を選択したが、それが正しいかどうかは彼らの時間選好率(現在の消費を未来より好む率)と金利の関係に依存する。あえて世代間の差を無視すると、永遠にゼロ金利で時間選好率が大きいと、今すべて消費して将来そのコストを払うことが合理的だ。
安倍政権はそれに近いが、金利が上がると国債(名目政府債務)を償還する財源(金利で割り引いたプライマリー黒字の現在価値)が足りなくなり、物価が上昇して調整される。つまり
物価水準=政府債務/税収の現在価値
というのがFTPLである。ここで政府債務を社会保障給付に置き換え、税収に社会保険料を含めると、金利が上昇すると右辺の分母が小さくなり、左辺の物価が上昇する。これは均衡条件なので、いつ実現するかは不明だが、いずれ税負担が限界に達すると、金利と物価が上がることは避けられない。
つまり与党も野党も社会保障給付を減らさない状況での国政選挙は、負担の大小ではなく、そのタイミングの選択に過ぎない。だが政府債務(社会保障給付)の水準を選ぶことはできるが、金利上昇のタイミングを選ぶことはできない。日銀が財政ファイナンスを続けても、含み損を蓄積するだけだ。選挙後に、局面が変わることもありうる。
追記:維新は「消費税の増税延期」を主張したので、第1象限に移した。