選挙は人間ドラマを凝縮した側面もある。ワイドショー的にはまさに打ってつけで、今回の衆院選も、本人あるいは配偶者の不倫騒動で世間をにぎわせた女性前職の動向が数多く取り上げられたが、特に注目された2人、山尾志桜里氏は愛知7区で勝ち残り、金子恵美氏は新潟4区、比例とも落選するという明暗を分けた。
すべては有権者の判断の結果とは言うまい。全体的な選挙構図も大きく左右する。山尾氏の愛知7区には、希望の党や立憲民主党の候補者が立っていれば、票割れしただろう。金子氏の新潟4区も、新潟県自体が、近年の野党共闘の成功エリアとして引き合いに出されており、相手の菊田真紀子氏は無所属という名の事実上の野党連合候補で手強かった。
ただ、そうしたことはわかっていても、本人が不倫騒動を起こして否定したのになぜか離党した山尾氏が当選し、ダンナの不倫で被害者であるはずの金子氏が落選というのは「理不尽さ」も感じるというのが率直な心境だ。開票速報が流れているとき、そんな思いをツイートしたら、気がつけば24日朝の時点で4600もリツイートされていた。
本人が不倫疑惑の山尾氏がリードしていて、ダンナが不倫した金子さんが小選挙区落選というのは、これ以上の理不尽はあろうか。
— 新田哲史 (@TetsuNitta) 2017年10月22日
最後に会ったのは十数年前ですが
もちろん、この反響は、私に同意してくるネット民ばかりではない。野党支持者とみられるアカウントからは「不倫と政治家としての能力は関係ない」と山尾氏を擁護するような意見もあったし、そもそものところで二人の「政治スキルの差」を指摘する声もあった。いずれも一定の理解はできる。ただ、繰り返すが「理不尽」というのは、候補者本人ではどうすることもできない、選挙情勢トータルを含めてモヤモヤ感は残る。一方で、金子氏にやや“寛容”な視点を持ってしまうのは、大学時代のサークルの1年後輩という私的な関係があるからなのは否定はしない。
サークルは早稲田の放送研究会。卒業後、タレント活動もしていたくらいだから、その存在感は確かに目を引く人だった。なんの用事だったか忘れたが、2年生のとき、免許取り立ての私が当時の愛車シルビアS13に、金子さんと彼女の仲良し2人を乗せた記憶もある。といっても、読者が妙に期待するような浮いたお話はまったくないどころか、彼女は放研のアナウンス部員で、私は裏方と“部署”は異なるし、特に親しかったというわけでもない。彼女が2年生の後半くらいからはサークルへの出入りが少なくなり、卒業後もタレント活動をしていた噂は聞いていたが、最後に会ったのは十数年前、西麻布で行われた私の同期の結婚式の二次会のときだった。
全国的には、金子さんというと、ゲス夫の騒動のイメージがあり、ミス日本関東代表など華やかな芸能活動の過去もあって、なんだかタレント崩れが政治の世界に迷い込んできたように思われるかもしれないが、実は彼女自身は政治家一家に育っている。
本人から聞いた話によると(ウィキペディアにも一部書いているが)、お父さんは、いまはもう新潟市に合併した月潟村の村長。彼女は美人三姉妹の三女だった。政治家になった経緯は詳しく聞いていないが、お姉さん二人は早く結婚していて、父親の地盤を継ぐのは彼女しかいなかったのかもしれない。これも、全国的には勘違いされているが、いきなり国会議員になったのではなく、市議→県議とステップアップは重ねてきての国会当選。おそらく「魔の二回生」の中では、一定の政治キャリアは積んできていたほうだった。
男性にはない障壁も試練
その後、時の人になり、良くも悪くも注目される若手政治家になったのは周知の通り。ダンナに対しても怒りを感じたこともあったが、それ以上に、ゲス不倫を暴いた週刊文春の新谷編集長が、その著書で、ネタを察知したのは出産直前のことで彼女の出産を待ってからネタを放出した、だから俺は優しいんだ的なことを自慢げに書いてあったのには非常に腹が立った。お子さんの「公用車送迎」をあげつらった週刊新潮のミスリード記事についても編集部の昭和カルチャーまみれっぷりには不快さを感じた(駒崎さんの指摘には同意だ)。
ただ、私も選挙の仕事はしてきたし、大なり小なり選挙プロの知己はいるので、新潟の自民党が2009年以降、弱体化し、この選挙が相当苦しくなる可能性は知っていた。この選挙も、駒崎さんやおときた君たちにも応援されていて、なんとか比例復活はしてほしいと個人的に願っていたが、あと一歩のところで届かなかった。
当選から一夜明けてもブログ、フェイスブックにコメントがなくて、大丈夫かと心配していたが、きょうの未明、更新はされていた。その中では、今後も政治活動を続けるのかについては特に言及されていなかった。
政治の世界は非常に厳しい。所属政党の大逆風で、本人がまともに矢面に立たされることもあれば、逆に所属政党が全国的に大勝しても地元選挙区の構図などでその波に乗れないこともある。先日も、水野ゆうきさんが持病を告白していたが、ストレスに体が蝕まれることも珍しくない。新潮に書かれた託児の件を含め、男性にはないさまざまな社会的障壁も女性の試練となる。
再起するなら「お騒がせ体質」からの脱却を
金子さんが、もし、今後も政治活動を続けるのあれば、この落選は長い目でみれば、自分自身を見つめ直し、リブランディングできる機会だと思う。奇しくも、山尾氏は一度落選し、そこから這い上がってきて知名度を全国区にし、今回の修羅場も乗り切るしぶとさを身につけた。
ただし、だ。政治家からメディア戦略のアドバイスを求められてきた立場として、厳しいことをあえて言わせてもらえば、「お騒がせ体質」がつきまとっているようにも見える。
金子さんの最初の著書は『韓国に嫌われた私』。もう10年以上前のことだが、韓国を訪問したタレント時代に「韓国のスタバはイカのニオイ?」「帰国の3日前からキムチや韓国料理は食べません…臭いますから…」などと辛辣なことをネットに書いて、彼の国で大炎上。この本の冒頭にもあるが、韓国滞在中に日本大使館から早期の帰国を勧められる騒動に発展した。
政治家になる前のことだし、若気のいたりだったともいえるが、今回の選挙もひと騒動があった。Facebookで、相手の菊田陣営に喧嘩をしかけて波紋を呼んだのだ。自らの支援者が相手方の後援会関係者に「金子を応援するのであれば、明日から今の取引を止める」と言われたと主張した。
新潟4区で場外乱闘 自民党の金子恵美がSNSでライバル攻撃 「デマだ」と警察沙汰に|AERA dot. (アエラドット)
ネガティブキャンペーンの戦術は、あまり日本の選挙になじまないが、やるのであれば提示する事実としっかりした裏付け、そして拡散効果を見極めて戦略的に仕掛けるのが常道だ。まあ、てっきり裏付けが取れていると思って、私も当時は「いいね」を押したが、その後、相手陣営が「事前の確認もなかった」と憤慨して警察に駆け込んだあたりから、危うい気もしていた。
政治の世界をみてきて、小池氏や蓮舫氏という女性政治家のメディア対応を論評した本を書いたこともある私としては、もし再起をかけるのであれば、立ち位置の見直しが必要だ。
「炎上頼み」になると、本人にはその気はなくても、異形のキャラとして世間の認知が定着してしまう。衆院選には出なかったが、その究極的な姿とも言える大阪の某女史の成れの果てを見ればわかるだろう。さすがに某女史と同列にはできないし、したくもないが、ただ、金子さんが今回の選挙に通っていたとしても、政権与党では、炎上体質があると、主流の先輩政治家や官僚たちに嫌われるから、出世は難しくなる。
PR戦術を熟知した人材をブレーンに
本当かどうかはわからないが、Facebookの件は、陣営幹部にも相談が十分でなかったという一部報道もみかけた。ツイッターでは、私に反応してきた自民支持のネット民から「新潟の自民党候補者はSNSの使い方ふくめて戦い方が古い」という指摘もある。なお、本論ではないので詳しくは立ち入らないが、菊田陣営には、おそらく選挙業界でも名うてのネット軍師が入っていたのではないかと私はみていて、コンテンツの工夫の差を感じる。
もし再起をするのであれば、きちんとした政見を発信していくこと。「金子恵美といえばコレ」といったキラーコンテンツともいえる政策もカタチにする必要がある。ある程度の長さと質を備えたオピニオンブログを定期的に書き続けるのも一手だろう。最初はプロの書き手に手伝ってもらうのでもよい。申し訳ないが、いまの金子さんのブログではアゴラに転載できる水準の記事は少ない。
定型の選挙を運用できる実務担当者はいるようだが、空中戦のブレーンがあまりいないようにも思える。時に苦言も言ってくれ、なおかつネットも含めた最新のPR戦略を熟知した人材であったり、自民党政治の世界での作法をよくしっている人材を周りに配置しておくことが必要ではないか(まあ、数は少ないですが)。
かつて小泉元首相が「政治家の出処進退を決めるのは政治家自身」と、よく言っていたように、最後を決めるのは金子さん自身だ。政治活動を続けるにせよ、これで身を引くにせよ、せっかく5年近く国政で活動してきた経験と人脈を生かして、よりよき再起の一歩を踏み出されることを陰ながらお祈りしています。