嵐の前の静けさ:日本に来るたびに感じるガラパゴス化

前回の日本癌学会の際には、直前のベトナム訪問の食中毒を引きずり、今回の日本癌治療学会時には風邪で咳と熱に苦しみ、散々な日本出張が続いている。今、羽田空港で、これからシカゴに戻るところだが、階段を上がると息切れがする。少し回復はしてきたが、体が鉛のように重い。11月5日には高松宮シンポジウムのために、また、東京に戻る。体力の限界へ挑戦しているような感じだ。

そして、今回の滞在中に総選挙があった。結果は大半のメディアの予想通り(大きく外れたメディアもあったが)、自民党が圧勝した。選挙目当てで、希望の党に合流した人たちは、追い風に乗るつもりが、強烈な逆風になって、多くが討ち死にした。政権交代どころか、野党第2党という惨状に、言葉も出ないかもしれない。代表は開票当日に日本に不在であり、「希望の党」の命はひょっとするとかなり短いかもしれない。しかし、「風」というのは恐ろしいものだ。「排除」の一言で、追い風が逆風に変わってしまった。代表も不用意な発言だったが、メディアの印象操作は怖い。アンチ安倍の票が一気に立憲民主党に流れた。

しかし、選挙後も相変わらず、「一強を倒す」と叫んでいるのは奇異に感じてならない。いくら日本人は判官贔屓であっても、「強い」=「悪い」と思うほど馬鹿ではない。政権交代を望むなら、「日本をどうしたいのか」をはっきりと示してほしいものだ。スローガンが「安倍一強を倒す」だけでは、政治家として貧弱すぎるのではないか?格闘技ではないのだから、「強いものを倒す」だけでは恥ずかしい。

そして、野党からは、北朝鮮問題など、ほとんど取り上げられなかったが、それも不思議だ。在韓米兵の家族の引き上げや米国人の韓国からの資産引き上げなど、米軍の北朝鮮攻撃を想定したような動きが活発化している。北朝鮮の動きがピッタリと止まっているのが良い兆候ならばいいが、トランプ大統領も「嵐の前の静けさ」と言っていたのが気になる。

日本に来るたびに感ずるのは、日本のガラパゴス化である。世界の流れとは全く異なる悠久の時間の流れを感じてしまうのだ。通算で米国に10年以上滞在しているので、私自身の発想が、日本人的でなくなってきたのかもしれない。ストレスを感じながら、働き続けるよりも、引退した方が良いのではないかと、ふと思ってしまう。体が弱ると、心も弱ってしまうのか?

そして、昨日、本屋さんに行って笑ってしまった。「頭に来てもアホとは戦うな!」というタイトルが目について、思わず、手に取った。ペラペラとめくって購入しようかと思ったが、出版社名を見て元に戻した。私もアホとは距離を置き、戦いたくないが、この人たちには言われたくない。アホと思っても、喧嘩を売られれば、戦うしかしかないのだ。この出版社のこのタイトルは本当に漫画の世界だ。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年10月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。