「うちの妻に限って…」「まさか自分の身に降りかかるとは…」このような言葉を私は何度となく耳にしてきました。
世の中に、離婚、不倫、大事故、その他不幸な出来事がたくさんあることを頭では知っていても、まさか自分の身に降りかかるとは思わないのが人間の性(さが)です。
かつて、拙著「本当にあったトンデモ法律トラブル」(幻冬舎新書)に書いたのと類似の話をすると、「世の中にはいろんな人がいるんだな~」と、ほとんどの人は自分とは無関係な他人事のような反応を示しました。「実は、あなたと同僚の〇〇さんもそうなんですよ」と、思わず言いたくなりますが、守秘義務のある身としてはぐっと我慢してきました。
池上彰氏の書籍に次のようなことが書かれていました。
日本の火山で噴火が起こった時、噴火の影響で死者が何人か出たそうです。一部の被害者たちのデジカメには、噴火の様子がたくさん写されていました。
つまり、死亡した被害者の中には、写真撮影に没頭するあまり逃げ遅れた人たちがかなりいたのです。
「噴火が起きても自分だけは安全だ」という安全バイアスが働いてしまったのです。
余談ながら、先般の台風は日本各地に甚大な被害をもたらしました。
被害にあった人たちは本当にお気の毒です。しかし、同程度の規模と言われた伊勢湾台風では、死者4,697人、行方不明者401人という大被害が出たのです。半世紀強の間に日本のインフラがいかに強固なものになったかを示す典型例です。
「安全バイアス」とは逆に、顕著な出来事が人間のヒューリスティクスを狂わせる例もあります。
米国の同時多発テロの後、米国では飛行機を避ける人が増えました。ところが、1マイルあたりの死亡率は飛行機よりも車の方が37倍にのぼったのです(拙著「説得の戦略」P184)。
このように、人間は顕著な出来事が起きるとそれを過大評価するのに対し、日常的な不幸や事故は他人事と考えてしまう傾向があるのです。
英国の学者の調査によると、既婚男性の約1割が他の男性の子供を(自分の子供だと思って)育てているそうです。
これを読んだほとんどの既婚男性は、「気の毒にな~」と思うだけで、自分がその中に含まれているとは決して思わないでしょう(「安全バイアス」)。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」と問われれば、私は次のように回答しています。
歩道を歩いていても車が突っ込んできて命を落とすことはあります。
だからといって家の中に閉じこもっている訳にはいきません。
世間でよく注意喚起されていることをしっかり守る習慣を身につけることに尽きます。
飲酒運転をしない、歩きスマホをしない、渡航自粛された地域には行かない、ロードバイクで信号無視をしない、台風の時は海辺に近づかない…等々テレビやネットで誰もが接することのできる情報ばかりです。
こういう注意喚起を無視するのは、過剰な「安全バイアス」が働いていると言っても過言ではありません。
離婚や不倫等法律トラブルについてはどうやって対処するのか、ですって?
まあ…拙著を読んで普段から注意して、自らに注意喚起するのが一番でしょうか?自著宣伝になって失礼しました。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年10月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。