危機を演出するプロがいる
自民党の圧勝をフォローするNHKの番組を見ていて、「ええっ」と思うシーンに出くわしました。看板記者の岩田明子氏が登場し、ごく平板な解説をしているのです。岩田記者といえば、安倍政権の不支持率が上がっていたころ、文春10月号(9月発売)に「安倍政権は今、落城の危機に直面している」と書き、注目を浴びました。
原因は「安倍首相の驕りにある」とまで指摘し、メディアには「最も安倍首相に近い岩田記者逃げられては安倍首相は終わりか」などという政権危機説が流れました。加計、森友学園問題の追及は厳しさを増していたころです。その横に「小池国政新党、われらが姿」の小池氏の記事も掲載され、一般の読者は「ついに転機がきたか」と、思ったことでしょう。
著名な記者ならば、「落城の危機」がなぜ「自公で3分の2を超える圧勝」になったのか、書く責任あります。「落城の危機」は自民党への同情を買うつもりだったのでしょうか。
政権とNHKの近い関係をみれば、「なんだろう、この記事の狙いは」と想像するのが普通です。その後、岩田記者に何かがあったとも聞きません。私などは「官邸に頼まれて、意図的に危機をあおったのだろう」と、考えます。国民に「安倍首相が退陣しては、混乱が起きる」と思わせようとしたのでしょう。「危機をあおって危機対策とする」くらいの演出を考えるプロが政権内部にいるのでしょう。やりますね。
東大教授もポストで釣られる
次は東大名誉教授の御厨貴氏です。官邸内部は、人材としては二流、忠誠を誓うことかけては一流という構成で固め、周辺の会議、審議会には知名度のある東大教授らを配置します。ご意見拝聴に何人ものノーベル経済学賞の学者(米国)が招かれたのもその手のイメージ操作です。
御厨氏は衆院解散当時、「新党を旗揚げした小池氏が一気に主導権を握った。今回の解散を与野党リセット解散と命名したい」(読売、9月29日)と述べました。ひょっとすると、激変が起きかねないと、政権に近い識者が世間を思わせたのです。選挙が自民圧勝に終わると、「希望の党はできてもいない幻想だった」(10月24日、日経)と、手のひらを返します。
この手の政治論評をする識者は、政権とって都合がよいのです。御厨氏は天皇退位に関する政府有識者会議で座長代理を務めました。政府系機関、官邸の各種の審議会ポストを東大教授らに与えておくことは、官邸政治の危機管理に役に立ちます。
官邸には、相当な危機管理のプロがそろっていると、想像します。安倍首相、菅官房長官自身もその点については、相当にしたたかでしょう。ネット時代、メガデータ時代に即応したデータ収集、分析でも、プロの情報会社の協力を得ているに違いありません。
飲み薬にアメ混ぜる
イメージ操作という意味では、憲法改正では、自衛隊の明記と教育費無償化を並列化するのは、タカとハトの抱き合わせ販売みたいなものです。教育無償化に賛成する有権者を、自衛隊の明記についても賛成に呼び込むのが狙いでしょう。
消費税上げの使途を変更し、国債償還ではなく、社会保障費や教育費にも回すのは、有権者へのアメにする狙い持っています。19年10月の消費税上げ(10%)を予定通りに行いやすいように、税収の相当な部分を有権者に戻し、増税に対する抵抗感を緩和することがあるのでしょう。
これに対して、小池陣営は幼なすぎました。「政権交代は次の次で目指す。政権交代は今回は無理」は正しい認識でも、安倍首相にみられるように、ウソになりかねなくても、強気強気の発言を連呼すべきなのです。しゃれて言ったつもりの「ユリノミクス」は、ひ弱な花に終わりました。
もっとプロを駆使してイメージ操作にたけることです。現在は、小池氏個人の思い付き、好みを言っているだけなのでしょう。ネット、情報化時代になり、政党にとってもイメージ操作は不可欠な手段になりました。野党は、その点でかなり遅れています。政治理念と切り離して、したたかにならないと、負けます。
小泉進次郎氏は、開票速報で、恐らく全テレビ局に登場し、視聴率稼ぎに協力しました。加計学園問題では「首相にしか説明責任を果たせない」とかの発言しました。首相批判のようでもありながら、自民党の懐は深いと思わせる効果はありました。官邸も小泉氏もイメージ操作を考えてのことでしょう。
新聞は「消費税の増税を主張しながら、自分には軽減税率の適用を要求する。そんなのはおかしいでしょう」と、小泉氏に痛いところを突かれました。選挙の直前に開かれた新聞大会は、声明文に「新聞に軽減税率が必要」と書きました。消費税が選挙の争点の一つだし、消費税法の改正にすでに盛り込まている項目ですから、黙っていればいいのです。イメージ操作を自民党に学んだらどうでしょうか。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年10月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。