【映画評】ゲット・アウト

NYで写真家として活躍している黒人男性クリスは、白人の恋人ローズの実家に招待される。だが、過剰なまでの歓待と、差別主義者ではないはずの家に黒人の使用人がいることに、クリスはかすかな違和感を覚えた。さらに、夜中に庭を猛スピードで走り去る管理人や、窓ガラスに映った自分を凝視する家政婦などに驚かされる。翌日、パーティーが催されるが、客は白人ばかり。ただ一人、若い黒人をみつけたクリスが、何気なく彼を撮影すると、フラッシュに驚いたその青年は鼻血を出しながら「出ていけ!」と叫ぶのだった。何かがおかしい。そう感じたクリスは、ローズと一緒に実家から出ようとするが…。

黒人青年が白人の恋人の実家で壮絶な恐怖体験をする異色ホラー映画「ゲット・アウト」。黒人青年が白人女性の恋人の実家を訪ねる展開は「招かれざる客」を思い出すが、この作品は異人種間の恋や融和、無理解を描くなどという“なまぬるい”話ではない。人種差別は、映画では何度も扱われた見慣れたモチーフだが、それをモダンホラーという切り口で描くなんて、誰も思いつかない離れ業だ。

黒人青年の失踪事件や、鹿が車で引かれる冒頭から、郊外の豪華なお屋敷の異様な住人たち、精神科医でもあるローズの母が施す催眠療法など、いちいち怪しい。それらがすべてが繋がってくる展開が見事で、荒唐無稽な設定なのに、思わず唸ってしまう。後半はホラー、サスペンス、アクションと怒涛の展開で、それが現実的に可能かどうかはさておき、恐ろしさと驚きは、文字通り衝撃的だ。ジョーダン・ピール監督は、コメディアン出身で、これが監督デビューだそう。緻密な脚本と高度なブラックユーモア、人種差別という社会派ネタをホラーサスペンスで料理するセンス、有名スターを使わないことでストーリーに常に注意を引き付けるテクニックなど、その手腕は驚くほど鮮やかだ。究極の恐怖の裏側と着地点に、今も根深い人種差別意識がしっかりと見てとれる。間違いなく拾い物の1本だ。
【85点】
(原題「GET OUT」)
(アメリカ/ジョーダン・ピール監督/ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ、ブラッドリー・ウィットフォード、他)
(新感覚ホラー度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年10月27日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。