小池百合子の本当の目論見は、どこで外れたのか?

田原 総一朗

BS朝日「激論クロスファイア」ツイッターより:編集部

第48回衆議院選挙が22日、投開票された。与党は、自民党、公明党あわせて313議席という勝利に終わった。安倍晋三首相は、「衆院選、勝敗ラインは与党過半数」 、つまり自公あわせて233議席以上と言っていたのだから、3分の2を超える議席の獲得は、大勝利と言っていいだろう。自民党が一時の劣勢から、ここまで挽回した要因はいったい何なのか。

ひとつ目は、自民党が成果としてアピールした「アベノミクス」に、各党が対案を打ち出せなかったことだ、と僕は思う。

以前にも話したことだが、アメリカ、イギリス、フランスなど、欧米の先進国は2大政党だ。ひとつは、自由経済をうながし、政府は社会に深く介入しない、つまり小さな政府を目指す「保守政党」。対する「リベラル政党」は、社会保障に厚い大きな政府を志向する。

保守政党の政権で自由競争が続くと格差が広がり、不満が高まる。そこで選挙を行うと、社会保障が厚いリベラル政党が勝つ。政権をとったリベラル政権は、社会保障や福祉に、どんどん税金を投入する。当然、財政が悪化する。そこで財政再建のため、小さい政府を志向する保守政党が次の選挙では勝つ。こうして、政権交代が起きていくのだ。

だが自民党というのは、保守政党でありながら、経済面ではリベラルだ。自由経済主義ではないのだ。これは、日本人が自由経済を嫌いなことに要因がある、と僕は考えている。だから、かつて竹中平蔵さんらが「新自由主義」を掲げたとき、国民はたいへんな拒否反応をみせたのだ。

そのため日本の政党は、自民党を含めてみんな経済面ではリベラルになった。みんなリベラルなのだから、野党が対案が出せないのも仕方ないだろう。

いま、自民党は消費税を2%引き上げ、10%にしようとしている。これに対して、野党はもちろん大反対だ。だがしかし、そもそも消費税を10%にするということは、三党合意で決定したことだ。民主党の野田佳彦政権のときのことである。

だから、野党の態度は、反対するための反対に思えるのだ。そもそも欧州では、消費税率20%前後が当たり前である。日本の財政を考えても、消費増税反対にはまったくリアリティがない。

さて、自民党が挽回した要因のもうひとつの理由だ。それは、東京都知事の小池百合子さんにある、と僕は考えている。

希望の党と民進党が合流した際、「全員を受け入れる気はさらさらない」と、小池さんが言った。この冷たい発言が、最後まで尾を引いた。なぜ、こんな言い方をしてしまったのか。

実は、この発言の前に小池さんは、若狭勝議員と細野豪志議員が画策していた新党立ち上げについて、ばっさりと「リセットします」と言い放っていた。ここまでは、メディアにも国民にも受けていた。小池さんはこれに気をよくしたのではないか。だから、わざと厳しい言い方をしてしまったのではないか。

希望の党が野党第1党となり、自公が過半数割れすることを小池さん自身、目論んでいたのだろう。もっと言えば、安倍首相が退陣、石破茂さんがそのあとを引き継いだところで、自民党と連立する、という青写真だ。

以前、僕は、「『小池さん』という人は、非常に不思議な存在だ」「党にビジョンがなくても、「小池さん自身がビジョンになれる」と書いたことがある。小池さん自身が、「希望の党」の象徴なのだ。だからこそ、この発言は痛かった。

今回の選挙は、与党の勝利に終わった。だが国民は、安倍政権を選んだのではない。ほかに選択肢がなかっただけだ。そのことを、安倍さんは肝に銘じてほしい。

長期政権のゆるみから、森友・加計学園問題が起きた。一時は政権の危機になった。そのことを、安倍さんはちゃんと自覚しなければならない。いい気になってはいけないのだ。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2017年10月27日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。