ぶどうを食べる日本人、ワインで飲むヨーロッパ人

黒坂 岳央

こんにちは!肥後庵の黒坂です。「ぶどう」と言われて私たち日本人は何を連想するでしょうか?「たわわに実った大きなぶどうの房をちぎって口に放り込むおいしいフルーツ!」

「スーパーや百貨店で販売されているちょっと値が張る果物」でしょうか?これらは生食するフルーツ食(以下、フルーツ)としてのぶどうです。しかし、ところ変われば連想するイメージも変わります。同じことをヨーロッパ諸国に住む人たち、例えばフランス人に聞くと「そりゃワインの原料でしょ!」と返ってくるでしょう。ぶどうと言われてフルーツを連想する日本人、ワインを連想するフランス人。この違いはどこから来ているものでしょうか?

私は高級フルーツギフトショップを運営しており、巨峰やシャインマスカットなど色んなぶどうを販売しています。また、個人的な趣味で世界のワインを収集し、ワイナリーツアーへ赴き、時にはフランスやスペインへいってワインを飲み歩く「大のワイン好き」です。フルーツとしても、ワインとしてもぶどうを愛する人間として今回お話をしたいと思います!

ヨーロッパでぶどうを育てるのは「ワインの原料のため」

ヨーロッパではぶどうはフルーツとして食べるのではなく、ワインの原料のために栽培されています。ワイン関連の情報サイト、「BK Wine Magazine」によると次のような一文があり、ほとんどのぶどうはワインを生産するために作られているとあります。

in Europe almost all grapes are used for wine production

(ヨーロッパではほぼ全てのぶどうはワインの生産に使われる)

引用元:BK Wine Magazine

残念ながらこれ以外に信用のおけるデータソースは見つけられませんでしたが、一説によるとその割合は80%超にのぼると言われています。その逆に日本では、ワイン用に栽培されているぶどうは全体の10%程度に留まるようです。表にしてまとめると次のようなものになります。

ヨーロッパ V.S. 日本「ぶどうの使い方」

ワイン用 フルーツ用
ヨーロッパ 80% 20%
日本 10% 90%

この割合の違いがそのまま、日本人「ぶどう=フルーツ」、ヨーロッパ人「ぶどう=ワイン」というイメージの違いに現れているわけです。

フルーツ・ワイン両用のぶどうは存在しない

これはあまり知られていないことですが、フルーツとして食べるために栽培されたぶどうはワインには向きませんし、その逆にワイン用に栽培されたぶどうはフルーツには向きません。

フルーツ食として人気のあるぶどうは大粒で甘みが強い品種です。最近では種なし、皮ごとおいしく食べられるシャインマスカットという品種も人気を集めています。ですが、そんなおいしいフルーツ用ぶどうをワインにするとどうなるでしょうか?「できるか?できないか?」ということであれば間違いなくワインを作ることは可能です。しかし、おいしく作るとなると話は別。

例えば赤ワインは渋みが効いた辛口のものがおいしいのですが、渋みを出すタンニンという成分はぶどうの実ではなく、「皮と種」に多く含まれます。ですが、種なしで大粒ぶどうを使うとなると、皮と種の比率が小さくなってしまい、十分な渋みが出ません。味の好みもありますが、私は赤ワインは強い渋みで口の中がギシギシするほどたっぷりのタンニンの味わいのあるものが好きなので、それが十分にない赤ワインは単なるアルコールの入った甘いぶどうジュースのようで積極的に飲みたいと思えません。

また、ワイン用に栽培されたぶどうをフルーツのように食べるのはどうなのでしょうか?私は山梨県にある複数のワイナリー巡りをしたことがあります。そこではワインの試飲や購入ができるだけでなく、ぶどう畑を見学して畑のぶどうを食べることも出来ました。黒ぶどう、白ぶどうともに食べてみましたが…正直、あまりおいしいと思えませんでした。実は小さくて可食部が少なく、そして何といっても酸っぱいです。フルーツ用とワイン用のぶどうの糖度はほとんど変わりません。

実際、糖度計で測ってみるとフルーツ用のぶどうと、ワイン用のぶどうの糖度がだいたい同じ数値を指します。しかし、食べてみるとなぜかワイン用のぶどうはかなり酸っぱく感じる。これはワイン用のぶどうはフルーツ用のぶどうに比べ、より多くの酸味が含まれているためです。ワイン用のぶどうは酸味が強めで、生食に向いているとは思えません。

フルーツ用にも、ワイン用の両方に適したぶどうは、少なくとも私の知る限りでは存在しません。やっぱりフルーツはフルーツ用のぶどう、ワインはワイン用のぶどうを使うほうがおいしく食べられるというのが私の考えです。

国内で楽しまれている日本のワイン

日本のフルーツは間違いなく世界一おいしいと思います。少なくとも北米、ヨーロッパへ行った時に食べたフルーツと比べると、そのおいしさは比較にならないほどのものだと感じます。

しかし、ワインとなると世界での存在感はそれほどでもないというのが実情です。下記の表はThe Wine Instituteの統計データから筆者が作成したものです。2015年度のワインの生産量ランキングを見てみてください。

順位 国別 リットル(000) 世界シェア
1 アメリカ 3,318,900 13.43%
2 フランス 2,720,000 11.01%
3 イタリア 2,050,000 8.30%
3 ドイツ 2,050,000 8.30%
5 中国 1,600,000 6.48%
6 イギリス 1,290,000 5.22%
7 アルゼンチン 1,030,000 4.17%
8 スペイン 1,000,000 4.05%
9 ロシア 890,000 3.60%
10 オーストラリア 540,000 2.19%
11 カナダ 522,000 2.11%
12 ポルトガル 480,000 1.94%
13 南アフリカ 420,000 1.70%
14 ルーマニア 390,000 1.58%
15 日本 351,000 1.42%

データ引用元:The Wine Institute World Wine Consumption by Country 2015

これを見る限り、世界のマーケットで日本のワインは健闘しているとはいえない状況です。これは日本のワインが世界に比べて味が劣っている、値段が高い、という理由からではなく、世界で販売することを前提にしているかどうかという「マーケティング」の問題でしょう。現状では日本で生産しているワインは国内で販売され、日本人だけが楽しんでいる状況です。

日本のぶどうは間違いなく世界一高品質だと思っています。これは日本の栽培技術が優れていることや、おいしいフルーツを食べたいという日本人の味覚が繊細であることから来ていると考えて間違いないでしょう。日本人がその気になれば、ワインでも世界のマーケットを取りにいけるんじゃないかと思っています。そうなれば日本が世界に誇る、優位性のある産業を新たに作ることになるのではないでしょうか。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。