会社は経営者次第だとよく言われる。しかし、経営者がすべての実務に長けているわけではない。経営者が日々、悩むことの一つに業績があるが、経営者自身がすべての経営実務に長けているわけではない。このような時に、経営者のブレーンとして活躍するのが、コンサルタントという経営のプロフェッショナルになる。
コンサルタントと聞いてどのようなイメージを抱くだろうか。脱税や金銭がらみ事件が発生すると、コンサルタント会社が絡んでくることが多い。そのため、「コンサルタント」はあたかも悪いことをしているような印象で受けとめられることがある。たしかに「コンサルタント」と言われても、なにをしているのかわかり難い。
今回紹介するのは見せかけでなく、実績を兼ね備えたコンサルタントである。経営コンサルタントの小宮/一慶氏。日本を代表する経営コンサルタントとして知られている。近著に、『世界一やさしい 決算書の教科書1年生』(ソーテック社)がある。
決算書がわかれば経営がわかる
本書は、決算書を学ぶ人、何度か勉強してみたけれど挫折してしまった人、深い読み方を知らない人を対象に、「決算書の基本、特にその”読み方”を解説している」ものである。数時間かけて読み込めば、決算書の読み方の基本は必ず理解できる。理解できれば、会社の見え方が違ってくる。小宮氏は本書のなかで次のように述べている。
「ビジネスの現場で、決算書のつくり方が必要なのは、経理や公認会計士、税理士です。多くのビジネスパーソンは基本的な読み方が分かればよく、実際にそれで十分だと思います。しかし、数時間程度の勉強すれば、かなりのことが分かるのにやらないことは“もったいない”ことです。そう思いませんか?」(小宮氏)
「会社の決算書から、安全性、収益性、将来性を見極めたり、情報を自分自身の将来設計のために役立てることができます。また、取引先が突然潰れて、お金を支払ったのに物が入ってこない、納品したのにお金が支払われない、なんてことがあっては困ります。決算書が読めれば予防することもができます。」(同)
小宮氏が本格的に会計を勉強し出したのは社会人になってからである。銀行に入社して4年目に米国のMBAに入学したときが最初だった。それまでにも、通信教育で簿記を勉強したことはあったが、よく理解できなかったとしている。MBAをはじめとするビジネススクールは、経営職を養成することが目的だからニーズが異なる。
実際、私も30代の頃にビジネススクールに通ったことがあるが、ケースにリアリティがあったことを覚えている。会計は、オーソドックスな解釈として、財務会計と管理会計が存在する。「財務会計」は、PL・BS・CFを財務諸表として作成し公開するものである。「管理会計」は、経営が自社の方向性を策定するため使用する。
いまでは、あたり前かも知れないが、当時、管理会計という言葉は一般的ではなく企業ごとの統一解釈ではなかった。まだ、バブルの不良債権問題が色濃く残っている時代。銀行からの案件で、債権分類の実務を担当したことがあったが、これがかなり勉強になった。債権分類(第1分類~第4分類)などを聞いたことはないだろうか。
第1分類は「価値の毀損について危険性がない資産」。第2分類以下は「回収が困難、通常の度合いを超える危険を含むと認められる資産」と評価される。当時は、第2分類の企業が多く、リストラを推進して救済する(リストラ後に正常分類に移行させる)、または、破綻処理などをするための判断基準となる分析実務が多かった。
コンサルタントとは何者なのか
「コンサルタント」は特定分野の専門家になる。特に、会社の病巣を見つけることに長けている。阻害要因を、社内の雰囲気、顧客の評価、社員の意識、様々な要因からあぶりだすが、最も長けているのが決算書の読み方になるだろう。上場企業は情報が公開されているから分析は比較的楽といえる。しかし、未上場企業の分析は簡単ではない。
未上場企業多くが、なんらかの粉飾をしていると言われるなかで、病巣を発見し指導するには経験と勘が必要とされる。また、コンサルタントによって経営数字の着目ポイントは異なる。私は、最初に内部留保をチェックするようにしている。内部留保が多い会社は「比較的金儲けが上手い会社」と判断できるからだ。
また、営業残や売掛なども会社のクセが出やすいポイントになる。営業残、提案残の推移を比較する。売上げが未達であっても、営業残や提案残があれば見込めるからである。これに、受注確率を掛け合わせれば、周到なシミュレーションが可能になる。
実は、経営の仕組みはシンプルで業績を改善する方法は3つしかない。1つ目は売上高を増やすこと、2つ目はコストを下げること、3つ目は限界利益率の改善である。限界利益率は「(固定費+利益)÷売上高」だから限界利益率が利益幅を表していることがわかる。しかし、市場にはシンプルな仕組みをわざわざ難しく語る書籍が多いこと。
さすがに、まったく経営のことがわからない人には少々不向きかも知れないが、いままで市場に出回っていたどの専門書よりもわかりやすい。私もコンサルタントだが確実に基礎を学べる良著といえるだろう。シンプルに経営の仕組みを学びたい、また決算書を読めるようになりたい方におすすめしたい。
参考書籍
『世界一やさしい 決算書の教科書1年生』(ソーテック社)
尾藤克之
コラムニスト
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