やられた!『早慶近』大学ランキング戦線異状なし!?

尾藤 克之

2017年1月3日の新聞全面広告。

「旧帝大」「早慶上」「MARCH」「日東駒専」「関関同立」「産近甲龍」。少々いかつい「大東亜帝国」や、ちょっと粋な「関東上流江戸桜」というのもある。これは、大学ランキングをグルーピングしたくくりになる。しかし、今年になりいままでにない、新たなくくりが形成されたのをご存じだろうか。それが『早慶近』になる。

いま、「近畿大学」が、旧パラダイムな日本の大学群を席巻しつつある。少子化で18歳人口が減少する中、この10年で受験生の数を2倍に伸ばした。さらに、早稲田大学や明治大学を抜いて4年連続で総志願者数全国1位を継続している。

かつてはバンカラと体育会のイメージが強く人気校とは言えなかったが、なぜここまで変わったか。本日、紹介するのは『近大革命』(産経新聞出版)。著者は、世耕弘成経済産業大臣の弟、世耕石弘氏。いま、ビジネス界や行政から注目されている1人である。

ある男が広報戦略を変えた

――世耕氏は広報戦略を推進する立場にあるが、広告で伝えたかったのは、大学のくくりへの挑戦だった。当初、広告代理店側は「関関同立を追い越す!」といったストレートなコピーを考えたが、世耕氏はそれでは共感を得られないと判断し一蹴する。

「私たちと同じように固定化した価値観に縛られ、現状打破にもがいている人たちに共感してもらえるものを作りたかったのです。ぶっ壊す対象としては固くて古くさいもの。そこで生まれたのが『固定概念』という造語でした。近大が32年もかけて『クロマグロの完全養殖』をあきらめずにやり遂げたことも念頭に置きました。」(世耕氏)

「我々は、不倒の精神でやり遂げる。古くさい固定概念を、ぶっ壊す。不可能を可能にするのが、近大だから。挑戦的なメッセージは評判になりました。」(同)

――極めつけが本記事のキャプチャー画像で使用している『早慶近』になる。2017年1月3日の全面広告の第7弾。大学界の常識、そろそろ見直してもいい頃じゃないですかと挑戦的なコピーがつづく。しかしこれは、知る人ぞ知る事実なのである。

イギリスのタイムズ(The Times)の教育雑誌「The Times Higher Education」が発表した「世界大学ランキング2016-2017」を見てみよう。ランキングは論文の引用頻度や教員数、大学の収入など独自の13指標で評価される。世界1位はイギリスのオックスフォード大学、アメリカのカリフォルニア工科大学、スタンフォード大学が続いている。

日本の大学は合計で、69校(66校が国公立)がランキングインしている。39位に東京大、91位に京都大と続く。私立総合大学は、601-800位に、慶應義塾大、近畿大、早稲田大、東京理科大が登場するのみ。一般的に上位校とされる、上智大、「MARCH」「関関同立」は800位以内にはいっていない(最新情報は「2017-2018」を確認のこと)。

「旧帝大とか『いつの時代やねん!』って、そろそろ誰かがツッコミ入れても、ええんちゃいますの?とはいえ、これが受験生の大学選びで、大学のくくりが物凄く影響力を持っているのも事実。では、世界ではどうか。最新の『THE世界大学ランキング』で、一定以上の評価をされた頭文字でくくってみましょう。」(世耕氏)

「まさかの”早慶近”。研究・教育の国際基準ではこうなってるんです。はい、わかって言ってます。でもね、”早慶近”はさておき、日本は語呂が良いだけの大学の”くくり”に依存してませんか。そろそろ見直してもいい頃じゃないですかと。」(同)

近大のあくなき挑戦

――近大は、3年前に志願者数日本一を達成している上、大学の序列をぶっ壊すなどの宣言もしていた。「関関同立」のくくりに割って入ることを狙っていると世間では見られていた。ところが、一気に飛び越えて、近大が早慶と新たなくくりを形成するかのような意表を突く仕掛けで、読者に近大の真意を知りたくなるように仕向けた。

世耕氏は、「大学界の常識に疑問を抱いてほしいという願いを込めたのです」と語る。実際に、色々な声があったが、かえってネットで盛り上がりをみせた。インパクトの強い広告によって、近大のメッセージがより多くの人に伝わったということになる。

「広告には、日本の大学界へ危機感を共有したいという意図もありました。考えてみると、自動車メーカーであれ、電機メーカーであれ、グローバル企業はみな、最初は熾烈な国内競争の中で切磋琢磨し、世界で戦える組織と技術を磨いています。しかし、日本の大学は今のままでは世界の大学と競争することはできません。」(世耕氏)

――日本で「いい大学」というのは、偏差値の高い歴史のある名門校を指すことが一般的である。だから競争原理が働きにくく、大学自体は大きくは変われない。また変わろうとする意識も弱い。その結果、世界的評価が相対的に下がってきている。

世耕氏のメッセージは、日本の大学界へ発信したものだが、どのように関係者がとらえるだろうか。本書は、多くのビジネスパーソンにも読んでもらいたい一冊。日本の大学の序列をぶっ壊す!改革のキーマンがすべてを語った大逆転の戦略的広報術である。

追伸

今回、本書を推薦してくれたのは、猪狩大樹(某テレビ局プロデューサー)氏である。猪狩氏が世耕氏と知り合ったのは2015年5月の『教育ITソリューションEXPO』の講演だったそうだ。実は、私も同イベントには『就職活動ダイアリー』(トーダン)を出展していたので少々驚いた。猪狩氏は著者でもあることからアゴラで紹介したこともある。

10月初旬に、猪狩氏が主催となり、私の「9冊目の出版を祝う会」を開いてくださった。そしてある参加者から、数日前に、猪狩氏の身内にご不幸があったと聞かされた。当日は、「お祝いの場だから」「湿っぽくなってはいけない」と、明るく振舞っていたが、その気持ちに接して思わず言葉を失った。ご逝去を悼み謹んで哀悼の意を表したい。

参考書籍
近大革命』(産経新聞出版)

尾藤克之
コラムニスト

<第3回>アゴラ出版道場開催のお知らせ
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