衆院選直後の希望の党の議員懇談会で元民進党議員が小池百合子代表の責任を激しく追及しました。その急先鋒となったのが、今回の衆院選で岡山4区に立候補し落選、比例中国ブロックで復活当選した柚木道義氏です。この記事では、今回の衆院選で見せた柚木氏の一連の挙動を詳しく検証・分析してみたいと思います。
柚木道義氏の国会活動
柚木道義氏は今回の衆議院解散の時点で4回当選しています(小選挙区2回&比例復活2回)。民進党で「閣僚追及のエース」と呼ばれた柚木氏が行っていたのは、マスメディア発の稚拙な【レッテル】を論敵に貼って[動画]、正義の味方である自分を大衆にアピールして支持させようとする[民進党のお家芸の人格攻撃]であり、【スケイプゴート】を叩く【ポピュリズム】そのものであったと言えます。これまでに、カメラ目線で追及した松島法相「うちわ疑惑」[記事]、下村文科相「政治資金疑惑」、高木復興相「パンツ香典疑惑」など閣僚の疑惑を厳しく追及する自身の姿を強くアピールしてきましたが[動画リスト]、自身の政治資金疑惑については事務所関係者に責任を負わすなど【ダブル・スタンダード】も指摘されています[産経ニュース]。
安保法案の衆議院特別委員会通過時の委員会室において「やめろ~~~」と異様に叫び続けた抗議活動も常軌を逸していたと言えますが、委員長の背後という有権者に姿をアピールできるベスポジにちゃっかり位置取りしていたのは見事というより他ありません[動画]。当時の映像をよく見ると(冒頭写真参照)、柚木氏はカメラの方を時折見ており(笑)、この異様な抗議行動が意識的な演技であった可能性も考えられます。
いずれにしても、政策理念の具体性のなさ[website]と比較して、見事なまでの自己アピールの余念のなさ[動画]には、当選ファーストのための地元へのアピールを強く感じる次第です。
柚木道義氏の希望の党合流の経緯
2017年9月20日、衆議院の解散が事実上確定していたにもかかわらず、予定されていた厚生労働委員会の閉会中審査があったために地元に帰れなかった柚木氏は、質問中に選挙区に帰れない恨み節を公然と吐露していました[動画]。そんな中、9月25日に小池百合子氏が希望の党の創設を発表すると、民進党の人気は地に落ち、民進党議員は強い警戒感を持ったものと考えられます。そのまま立候補したら大惨敗をすることがほぼ確実な中、民進党前原誠司代表はまだ設立が発表されていなかった希望の党との合流に向けて実は9月18日から水面下で動き始めていたと報じられています[産経ニュース]。
そのような動きを把握していなかった柚木氏は、9月27日、民進党を発展的解党し、事実上希望の党への合流することを大島敦幹事長に申し入れました[産経ニュース]。柚木氏はこのときマスメディアの記者に対して次のような説明をしています。
記者の皆様には、これは私の選挙のためでなく、調査によっては、国民の8割の皆様が望まれている「新たな受け皿」をつくるための要望だと申し上げました。なぜなら、私は民進党で総選挙を闘っても、ありがたいことに、党派を超えたご支持を賜り、小選挙区で勝ちうる調査結果が出ており、私だけの事を考えれば、わざわざ解散前日に全ての予定をキャンセルして上京、党本部に要望する理由はないからです。民意の「新たな受け皿」つくる解散。同志の皆様とともに、全力で取り組んで参ります。
この発言をそのまま受け取れば、柚木氏は自分のことなど考えずに党のために民進党の解党を嘆願したということになりますが、同日の希望の党の結党によって民意がドラスティックに変化している中で、その影響が反映されていない民進党の調査結果を根拠にして小選挙区で勝てると思っていたら相当のお人よしと言えます。当然、柚木氏は自分が有利に戦えるために、強い風が吹いている希望の党からの立候補を画策したものと考えられます。
その証拠に、柚木氏は同日の報道ステーションのインタヴューに対して「確かに政策の一致は大事だと思う。私の弟は自衛官です。自衛力は強化すべき。日米同盟は重要。進化すべきという立場です。」とそれまでの安保法制反対の立場を180度変え、小池代表が求める安全法制賛成の立場をアピールしました。民進党の調査結果を信頼して小選挙区で勝てると思っていたら、理念を変えてまで希望の党の政策に迎合する必要はなかったと言えます。また、報道ステーションの記者が、国会でのプラカードの写真を見せると、「その当時のこととこれからのことは私は違ったフェーズがあると思うので、『これからはこういった形で現実的な外交安全保障・憲法を示していきますよ』と言った時に、皆様の受け止め方がどうであるかにかかっている」と政策を急転換したことの苦しい弁明をしました[映像]。
このように柚木氏は、希望の党に受け入れられなければ当選はかなり難しいと考え、「自分は保守である」と必死に装ってアピールしていたものと考えられます。まさに異様な叫び声で安保法制を反対していた柚木氏が、当選のためにいち早く民進党を見限り、政策を180度転換して、ネットで話題のネズミのように民進党を立ち去っていったと言えます[映像]
ここで私達が間違えてはならないのは、希望の党の1次公認候補191人が発表されたのは、小池代表の排除発言(9月29日)の4日後(10月3日)であるということです。
09月25日(月)小池氏が希望の党の設立&代表就任発表&小泉元首相と面談
09月26日(火)前原氏、神津連合会長・小池氏と次々に会談
09月27日(水)希望の党結党「日本をリセット」
09月28日(木)小池氏「憲法改正を議論」、民進党が希望の党へ合流を発表
09月29日(金)小池氏「排除します。全員受け入れる気はさらさらない」
10月01日(日)若狭氏「代表が選挙に出なくても構わない」
10月02日(月)小池氏「政権交代目指す」民進左派に刺客、立憲民主党結党
10月03日(火)希望の党1次公認候補191人、小池氏「出馬は100%ない」
10月05日(木)小池・前原会談で小池氏が出馬固辞
10月06日(金)立憲民主党50人擁立、希望の党が公約発表
10月09日(月)希望の党総決起大会
もし柚木氏が、9月29日の小池代表の排除宣言が気に入らなければ、10月3日の公認を返上して無所属で立候補すればよかったわけですが、柚木氏は希望の党への合流を選択しました。すなわち、柚木氏をはじめとする民進党から希望の党へ合流した立候補者は、合流前に小池代表が排除宣言を行ったことを認識しており、政策協定書に自らの判断でサインし、小池氏が出馬しないという情報を知りながら、納得ずくで希望の党の公認を受けたと言えます。
選挙期間中の小池批判
衆院選の公示後、希望の党の人気は急落し、マスメディアの情勢調査によって希望の党の候補者は全国的に苦戦していることが伝えられました。危機を感じた柚木氏は、選挙終盤になって支援者を前に、次のような小池批判を公然と行いました。
何が言いたいか。小池さんに物を言いたいんです。私は。皆さんと一緒。だってそうでしょう。仲間たちが一緒に死に物狂いで頑張ろうとしてるんですよ。これまで皆さんと一緒に築き上げてきた党を潰して。それをあいつはダメだ。こいつならいい。さらさらないと。全員受け入れる気は。排除の論理ですね。こんなこと言ってたら、安倍さんの上から目線と変わりませんよ。小池さんも。私はそう思いますよ。で、ご本人に対してもやっぱり言うべきことは私は言わなければならない立場だと思っているんです。前原さんに発展的新党、解党を進言した張本人ですから。ただ皆さん、小池さん、言葉は間違えました。トップリーダーはその言葉一つで、多くの皆さんに今日も来て頂いて、全国でこういうことさせていただいてて、支えてもらってる仲間たちが今日もこの瞬間戦ってて、そういう仲間の生き死にを50人、100人、150人と決めちゃうんですよリーダーの一言が。それがわからない人はリーダーになっちゃいけないんです。小池さんであれ誰であれ。戦争であれば死んじゃうんですよ。安倍総理もそうですよ。その一言で戦争になったらどれだけの人が犠牲になるんですか。リーダーというのはそういうものです。そして言葉間違って結果が出たら責任取らなきゃいけないですよ。そのことをやっぱり私は小池さんにもっと受け止めてもらわなきゃいけないと思います。そもそも私は(小池代表は)選挙に出るべきだったと思いますよ。衆議院選挙に。東京都民がどんなに批判しようが、それが国政政党のリーダーになるための条件ですよ。だから最後まで出るべきだと今でも思ってます。出ないんだったら党首辞めてもらいたい。橋下徹さんが出ないから維新が失速したじゃないですか。評価分かれるでしょうけどね。橋下さん。そういうことをね、バンバン言っていきますよ。小池さんに。但しそれは私が受かればの話です。情勢は本当に厳しいです。
柚木氏のこの演説は、自党の党首である小池代表を敵とする【ポピュリズム】であり、具体的に何を訴えているかと言えば「小池代表の排除発言によって民進党の仲間が選挙で苦しんでいるので、小池代表に抗議する」ということです。これは国政とはまったく関係のない私事であり、普通に考えれば、有権者にとって何の価値も持たないかなりおバカな訴えと言えます(笑)。民進党出身者の選挙での「生き死に」など、有権者にとってはどうでもいい話です。ただ、柚木氏の演説を聞いた支援者が演説の終了時に柚木氏に対して拍手を贈った事実から考えれば、もはやこの演説会はマインドコントロールの場になっていたものと推察されます。
先述したように、そもそも柚木氏は小池代表が排除宣言したことを承知して希望の党から立候補しているのであり、後になってそのことで小池代表を批判する資格はカンペキになかったと言えます。これこそまさに当選ファーストの候補者の自己都合による変節に他なりません。
また、柚木氏は、選挙期間中に「安倍9条改憲は危険!」とのビラを配布していたということが東京新聞の[報道]で明らかになっています。これは明らかに希望の党との協定に対する違反行為にあたります。加えて、希望の党の情勢が厳しくなったため柚木氏のような当選目当ての議員が小池批判を始めたというニュースは全国に広まり、希望の党のイメージをさらに悪化させました[映像]。
以上のような経緯を考えれば、小池代表から排除されずに希望の党に受け入れてもらったにも拘らず、情勢が悪くなると小池氏を批判したり、決められた協定を遵守しないことによって党のイメージを悪化させた柚木氏こそ、小池代表を批判するどころか、小池代表から強く批判されてもよい存在であると言えます。
当選後の小池批判
なんとか比例代表で復活当選することができた柚木議員は、選挙後に行われた希望の党の最初の議員懇談会で、小池代表を強く批判しました。
日刊スポーツ[2017年10月26日]
希望の党の両院議員懇談会に出席した議員からは、小池氏の代表辞任や解党を求める声も上がった。選挙中から小池氏の衆院選に臨む姿勢に厳しい立場を取ってきた柚木道義氏は「第2自民党になるなら、今この場で解党してほしい」と訴えた。「『排除発言』で180人もの優秀な候補が戦死した。血が流れるどころか、血しぶきが飛び散った選挙だった」と述べ、小池氏に辞任を求めた。しかし、辞任要求は4、5人程度だったという。
「戦死」「血しぶき」などのセンセーショナルな表現で小池代表を批判した柚木氏ですが、自ら望んで希望の党に合流させてもらって選挙区にエントリーした立候補者が有権者の民意を受けられずに落選するのは自己責任に他なりません。むしろ、小池代表の排除宣言によって、有権者が【ポピュリズム】の呪縛から解放されたとしたら、それは国民にとって有益であり、小池代表が柚木氏から批判される筋合いのものではありません。
さて、議員懇談会で小池代表を強く批判する一方、柚木氏はテレビのワイドショーに次々と出演し、小池批判を繰り返しました[映像]。さすがに小池代表を不合理に批判するセルフィッシュな選挙区向け発言は、希望の党の同僚である[長島昭久氏]および[玉木雄一郎氏]から批判を受けました。
なぜ柚木氏は比例復活できたか
ここで、柚木氏が比例代表で復活当選した要因について、分析してみたいと思います。柚木氏は、出演したワイドショーで比例で当選したことを問われると、次のような弁解を繰り返しました。
私は実は得票の半分は非希望の党の票で受かっている。柚木さんは応援するが、希望の党は応援しないとはっきり言われた[映像]。
「柚木さんは応援するが、希望の党や小池さんは応援しない。」という票が実は半分あって、地元では「柚木党」と呼ばれている[映像]。
この発言からわかることは、柚木氏は、小池批判をすることで「希望票」と「反希望票」を両方得ることに成功したと言えます。結果的に、これで高い惜敗率を確保したことが比例復活の最大の要因と思われます。
柚木氏は、選挙戦序盤においては、まずは希望の党の支持者を固めようとしたと言えますが、選挙戦終盤になっても選挙区のライバルとの差は縮まりません。そこで柚木氏が行った戦術が、人気が凋落した小池氏を強く批判することで「反希望票」を得るというものです。当然のことながら、党代表を批判するという非常識な戦術は、政党政治家としては禁じ手です。この戦術をすべての立候補者が使えば、希望の党は崩壊することになり、希望の党のハードコア層による固定票が得られなくなるからです。このため常識ある普通の立候補者はこのような戦術を使うことはありません。しかしながら、自分の事しか考えない非常識な人物はこの限りではありません。禁じ手を使えば、自分だけが利益を得ることになります。
このような状況は【社会的ジレンマ social dilemma】と呼ばれ、次のような条件が成立する場合に発生します。
(1) 集団の構成員の一人一人が集団に協力するか協力しないかを選択できる
(2) 協力するよりも協力しない方が高い利益を得られる
(3) 全員が協力しない場合、全員が協力する場合より個人の利益が低くなる
年金の支払いやNHK受信料の支払いは、まさにこの【社会的ジレンマ】の典型例です。柚木氏はこの【社会的ジレンマ】を利用して自分だけ禁じ手を使うことで「反希望票」を集票し、他者と比べて高い惜敗率を得たと言えます。その意味で、柚木氏は被害者ではなく、加害者であると言えます。
ワイドショーでの柚木氏の小池批判(非協力行為)に対して、長島議員と玉木議員が批判したのは合理的です。【社会的ジレンマ】における非協力行為によって被害を受けるのは、まさに同僚議員であるからです。
【エピローグ】
多くの方は「倫理が低い人間ほど得をして、倫理が高い人間ほど損をする」という理不尽に思える事例に遭遇された経験を持たれていることと思います。通常、そのほとんどの場合に【社会的ジレンマ】の条件が成立しています。
個人には選択の自由がありますが、【社会的ジレンマ】において利益を選択することは内集団の他者に損失を与えることに留意する必要があります。幸運なことに日本国民は公正を重んじる社会的規範が浸透していて、自分だけが利益を得て他者に不利益を与える行為を自重するのが普通です。しかしながら、それはあくまでも傾向であって、すべての日本人に成立するものではありません。
思えば、最近の日本の国政においては、自己アピールのためにセンセーショナルな戦術で国会を空転させる当選ファーストの議員の存在が顕著です。このような議員を有権者がしっかりと認識して、選挙で確実に落選させることが極めて重要であると考えます。
最後に、小池代表は排除発言で情報弱者の支持を失いましたが、多くの国民が希望の党を支持しなかった本質的な理由は、選挙のためなら節操もなく基本理念を変節させる柚木氏のような当選ファーストの元民進党議員の存在であると考える次第です。
編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2017年10月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。