「一日一善」という言葉がある。「1日に1つの善行を積み重ねなさい」という教えである。道徳の時間に「お年寄りに席を譲りましょう」「空き缶を見つけたらゴミ箱に捨てましょう」など、身近な善の積み重ねが大切だと教わらなかっただろうか。しかし、いつの間にか忘れてしまうものだ。何かをまた、はじめようと考えているなら朗報がある。
今回紹介するのは、『何もかも思いのままにできる人のマインドスイッチ365の極意』(主婦と生活社)。著者は、久瑠/あさ美。モデルやタレント活動をしていた時期もあるが、現在は、経営者やアスリート向けのメンタルトレーナーとして幅広く活動している。メディア出演実績も多く、著書累計92万部のベストセラー作家でもある。
「主婦と生活社」についても簡単に紹介したい。特徴としては、日本初の女性週刊誌『週刊女性』、ファッション誌『JUNON』『LEON』、NHK番組本や『NHKガッテン』などを手掛けている。近年では、ビジネス書や実用書の実績も多い。私も『JUNON』は無理としても、『LEON』に何らか登場できないものかメンタルを鍛えながら日々妄想をしている。
やるなら単純でわかりやすい施策が理想
「一日一読」。これは、私がつくった造語になる。多忙な人にとって「一日一善」は難しいかも知れないが、1日1回、単行本1ページに満たない文章を読み込むことはできるのではないだろうか。キーワードとなる文章は100文字にも満たない。「一日一読」で自分の心をメンテナンスしてもらえればという意図がある。本書にはこれが365話存在する。
久瑠氏は、川崎宗則選手(福岡ソフトバンクホークス)や、嘉風関(尾車部屋)、金田久美子選手(プロゴルファー)など数々のトップアスリートや一流企業の経営者を指南してきた実績がある。トップアスリートのメンタルと言われても、「自分には関係ない」「そんなのわかり難い」と思う人もいるだろうから私なりにヒントを提示したい。
2000年頃、多くの会社で成果主義人事制度が導入された。成果主義では頑張った人はより高く処遇されるため、バブル崩壊で冷え切った組織に活力を与え組織活性化が期待された。しかし制度上の矛盾が多く、まったく機能しなかった。当時、私は人事コンサルタントとして活動をしていたが、成果主義バブルを実感しながらも多くの疑問を感じていた。
そんななか、出会ったのが、“Emotional Intelligence”という論文だった。EQ理論の提唱者のサロベイ博士とメイヤー博士が、世界で唯一共同研究をしていたEQJAPANにジョインする。そこには、疑問に対する明確な回答が示されていた。ジョイン後、私は、戦略部門、ソリューション部門、営業部門を統括する責任者としてEQ普及につとめてきた。
最終的に行き着いたのが組織や人を変えるには、「明るい言葉を使う」「挨拶をする」など、単純でわかりやすい施策のほうが効果があるという点だ。社員1人ひとりが変わらないと風土は変わらない。参考になったのがクライアント先に所属する「アスリートの思考」だった。アスリートが多くの人を魅了する理由(思考)がヒントになった。
アスリートと一般人の思考が異なる点は
あなたは老舗の研修会社Xラーニングの部長である。国内大手メーカーA電器という会社がある。いま、営業活動が実を結びつつあった。全社員を対象とした、階層別研修、部門別研修が受注目前(総額10億円)だったのである。先方の副社長からは内諾をもらっている。社内では、正式に契約を交わした段階で、取締役昇進の内示をもらっていた。
正式契約の数日前に、慎重な記事で定評のある『週刊慎重』によって「A電器のデーター改ざん記事」がすっぱ抜かれた。行政も調査に乗り出し、10日後にA電器は全商品の回収を公表する。株価はストップ安で値がつかない。その後、社員10%の人員削減が発表された。受注目前の案件は流れた。取締役昇進の話も無きものになった。
さらに、ここぞとばかりに失注の責任を問う声が高まってくる。あなたはどういう感情を持つだろうか。「やってらんねえ!」「ふざけるな!」と思うだろうか。しかし結論は変わらない。残念ながら、これが一般的なビジネスパーソンの思考だ。では、アスリートはどのような思考になるのだろうか。次ぎの場面を想像してもらいたい。
オリンピックでアスリートが期待された結果を残せないことはよくある。しかし、言い訳や過去に執着する人を見たことがない。不満足であっても「ベストを尽くした」、まだレースがあれば「気持ちを切り替えて、次ぎを頑張ります」と答える。恋々と変えられない結果や過去にしがみつくことはしない。しかも実力者であるほどその傾向が強い。
本書が興味深いのは、アスリートや経営者のメンタルトレーナーをしていた、久瑠氏のメッセージにある。表面だけ見れば非常に平易な言葉かも知れない。しかし私は申し上げたはずだ。“「明るい言葉を使う」「挨拶をする」など、単純でわかりやすい施策のほうが効果がある”と。難しい言葉は消化不良を起こすのでおすすめはできない。
久瑠氏は次のようにも述べている。「潜在能力とは、自分を超える瞬間に引き出されます。『もう無理』の壁を乗り越えようと覚悟が決まる瞬間、味方してくれるのです」。アスリートや経営者も、最初から強いメンタルを持ち合わせていたわけではない。必要なのは、意識の向け方、潜在意識の扱い方を体感としてマスターすることにある。
参考書籍
『何もかも思いのままにできる人のマインドスイッチ365の極意』(主婦と生活社)
尾藤克之
コラムニスト
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