上記のような見出しを付けたら、きついお叱りを受けるかもしれないが、当方が言っているのではない。バチカン法王庁内の高位聖職者、枢機卿たちが、時には呟くように、時には大声で叫んでいるのだ。
ローマ・カトリック教会の長い歴史の中でローマ法王に対し「異端者」呼ばわりすることなど考えられなかった。ヨハネ・パウロ2世時代(1978~2005年)、ローマ法王は絶対に誤らないという「法王不可謬説」があったほどだ。それがここにきて、南米出身のフランシスコ法王に対し厳しい批判が聞かれるのだ。
その批判の内容も中途半端ではない。教会で「異端者」とは、教義に反している者への最高級の批判を意味する。それがローマ法王に向けられていることに、事の深刻さが理解できるというものだ。
ただし、“捨てる神あれば拾う神あり”だ。“異端者呼ばわり”されているフランシスコ法王を守ろうという声が出てきたのだ。その声は反法王派より数的には圧倒的に多いが、メディアが「反法王派」の批判の声により関心を示す習癖もあって、法王支持の声はこれまで無視されてきた経緯がある。
メディアは通常ではないことに注目し、それを少し大げさに報道するのが常だ。法王支持は当たり前で、法王批判は通常ではないと受け取られてきたが、ここにきてメディアが法王支持派の声にも関心を払いだしたということは、法王支持派と反対派の対立がそれだけ激しくなってきたことを物語っているわけだ。
先ず、法王批判が飛び出してきた背景と経緯について、繰り返しとなるが復習する。
事の発端は、フランシスコ法王が2016年4月8日、婚姻と家庭に関する法王文書「愛の喜び」(Amoris laetitia)を発表した時だ。256頁に及ぶ同文書はバチカンが2014年10月と昨年10月の2回の世界代表司教会議(シノドス)で協議してきた内容を土台に、法王が家庭牧会のためにまとめた文書だ。その中で「離婚・再婚者への聖体拝領問題」について、法王は、「個々の状況は複雑だ。それらの事情を配慮して決定すべきだ」と述べ、最終決定を下すことを避け、現場の司教に聖体拝領を許すかどうかの判断を委ねたことだ(「『対話』で解決できない問題もある」2017年10月2日参考)。
ローマ・カトリック教会では離婚・再婚者の聖体拝領は認めていない。夫婦の絆は永遠であり、その結び付きを破った者は神の御心に反するからだ。しかし、フランシスコ法王は聖体拝領を与えるかの最終決定を下さず、現場の司教にその権限を与えたのだ。
法王文書の内容が明らかになると、4人の枢機卿(ドイツのヴァルター・ブランドミュラー枢機卿、米国人レイモンド・レオ・バーク枢機卿、イタリア人のカルロ・カファラ枢機卿、4人目の枢機卿マイスナー枢機卿は今年7月、83歳で死去)は昨年9月、フランシスコ法王に一通の書簡を送り、離婚・再婚者への聖体拝領問題について、「法王文書の内容については、神学者、司教たち、信者の間で矛盾する解釈が生まれてきている」と苦情を呈し、別のところでは、「法王が発表した文書とそれに関連した発言は婚姻、道徳、聖体拝領に対する異端的な立場だ。フランシスコ法王の思想には道徳的真理を相対化するモダン主義とマルティン・ルター(異端者)の影響がある」といった内容の批判だ。
それに対し、フランシスコ法王批判の声を黙認してきた大多数の聖職者、神学者たちは法王を「異端者」呼ばわりする批判者が出てきたことに危機感を感じ、立ち上がってきた。代表的な運動は、フランシスコ法王支持者の「Pro Pope Francis」だ。目的はローマ法王とその慈愛の牧会文化を教会内の法王批判者から守ることにある。彼らは独自のヴェブサイト(www.pro-pope-francis.com)を作り、全世界からフランシスコ法王支持の署名を集めている。バチカン放送によると、その数は3万人に迫っているというのだ。
同運動はウィーンの神学者ポール・ツーレーナー教授(Paul Zulehner)とプラハの宗教哲学者トーマス・ハーリク氏(Tomas Halik)が始めたものだ。ツーレーナ―教授は、「この運動は右派、左派、リベラル派、保守派といった思想的カテゴリーに基づいて行っているものではない。開かれた教会を求める広範囲な人々から出てきたものだ」と説明している。同運動には著名な宗教者、政治家の名前も連らねている。
バチカン放送によると、法王文書に異議を唱える高位聖職者(枢機卿を含む)、神学者など「法王反対派」の数は63人を超えたという。一方、「法王支持派」の署名数は3万人に迫っている。数的には63人対3万人で「法王支持派」が圧倒的に多いが、反対派には高位聖職者が多いうえ、その影響力は大きい。彼らはフランシスコ法王を異端者呼ばわりして憚らない。
バチカン内外で法王反対派と支持派の対立が先鋭化してきた。バチカンのナンバー2、パロリン国務長官は先日、法王批判派に対話を提示し、事の平和的解決の道を模索しているほどだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年11月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。