つい最近報じられた大学生の就職人気ランキングでは、「地方公務員」が首位になっていました。民間企業でも、商社や銀行という大手企業の人気が依然として高止まりしています。
識者の中には、「もっと企業家精神を持て!」「若い時に起業をしろ!」と鼓舞する人もいますが、今の日本の税制等を斟酌すると、若者が大企業や役所に引き寄せられるのは止むを得ないと思います。
まず、給与所得者には「給与所得控除」という特権があります。
どうして控除されるのか説得的な理由は見当たりませんが、ともかく給与から一定額が課税対象から控除されるのです。
しかも、リンク先一覧表のように、収入金額が増えれば増えるほど控除額が上がる仕組みで、最高で220万円も非課税になります。
また、社会保険料は労使折半なので自己負担は半額で済みます(会社負担も給料の一部だと考えればそうはなりませんが…)。その上、(一定未満の収入しかない)給与所得者の配偶者には3号被保険者という制度があり、掛け金を一切支払わなくとも老後は国民年金が支給されるという特権があります。
極めつけは退職金控除です。
勤続年数20年を境にして、控除額がグンと上がります。勤続年数が20年以下の場合は、40万円✕勤続年数(80万円に満たなければ80万円)であるのに対し、勤続年数が20年超になると800万円+70万円✕(勤続年数-20年)となります。
勤続年数20年の場合の控除額は最大800万円ですが、勤続年数30年になると1500万円も控除されます。40年だと2200万円の控除となり、退職金が2200万円以下の場合は税金は一切かかりません。
これに比べて、自営業者は給与所得控除もなく、国民年金は夫婦各自が掛ける必要があります。自分で貯蓄しない限り、廃業の時にまとまったお金が手に入る訳ではありません。
その上、毎年予定納税という制度があり、前年度の所得を基準として税金の前払いまでしなければなりません。
これじゃあ、一度大企業や役所に入ったら退職までしがみつきたくなるのも無理はありません。ただでさえリスクの高い起業家を育成するのであれば、このような税制等を改正する必要があります。
しかしながら、制度というものは一度定着すると既得権益が生じるので、変更には長い時間と強い実行力が必要です。
メディアで働いている諸氏のほとんどがこの制度の恩恵を受けているので、変更に対する攻撃も生半可なものでは済まないでしょう。
はたして火中の栗を拾う覚悟を持った為政者が出てくるのか?
国や社会の将来のために自らが犠牲になる覚悟のある人物が出てくるのか?
昨今の志の高い若手政治家諸氏を見ていると、個人的には大いに期待しているのですが…。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年11月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。