珍しく産経新聞が防衛当局の批判をしています。頑張ってください。
でも書いている人は社会部なんだよね。
防衛装備庁(装備庁)が防衛省の外局として平成27年10月に発足して2年たった。防衛省内局の装備グループや陸海空3自衛隊の装備取得部門、技術研究本部を統合し、防衛装備移転三原則に基づき装備品輸出を主導する役割を担っているが、装備庁が計画した本格的な装備品輸出は受注競争に敗れるなど失敗が続き、成功例はない。今年7月にはトップの長官が交代したが、新長官は資質が疑問視され、「装備庁ならぬ褒美庁か」と指摘されている。(社会部編集委員 半沢尚久)
これまでの輸出計画は輸入国側の求めに応じる「受け身」であることが共通している。受注競争をめぐる勝機の分析や売り込みが適切だったか疑問符がつくものもある。
「司令塔の不在」(防衛産業幹部)も指摘される。司令塔の資質として、政治情勢も考慮した各国との安全保障協力や官民協力、交渉など幅広い分野での総合調整が求められ、装備庁長官が役割を果たすことが想定されている。
装備庁の初代長官を務めた渡辺秀明氏(63)は装備品の研究開発だけを担った技術研究本部出身の技官だった。研究開発以外の経験に乏しく、装備品輸出に関する総合調整を技官に主導させるのは無理だとの批判が多かった。
そうした批判を払拭するかのように今年7月、渡辺氏の退任を受け、2代目の装備庁長官に防衛省内局生え抜きの鈴木良之(よしゆき)氏(59)が就任した。
ところが、鈴木氏も評判が芳しくない。官僚として目立った実績がない一方、「在職中に司法試験に合格し、その試験勉強のために定時退庁を心がけていたことだけが有名だ」(防衛省幹部)という。試験勉強を優先し重要な会合をキャンセルしたこともあるとされ、ある意味で異色の官僚といえる。
鈴木氏は同期である防衛省の豊田硬(かたし)次官(59)と懇意で、防衛省内では鈴木氏の装備庁長官就任は豊田氏主導による「お友達人事」とささやかれている。
「出張するなら、食事がおいしい国がいい」
鈴木氏は就任早々、そんな言葉を周囲に漏らしたという。装備品輸出計画が連戦連敗であることを踏まえ、寝食を忘れて成果を出すという気概はまったく感じられない。
防衛当局の批判をすることは結構なのですが、少し論点がずれています。
防衛装備庁は国産兵器の輸出を目的に設立された組織ではありません。
防衛装備庁を設立した理由は防衛装備を取得運用の効率化を図るためです。国産調達が目的化して外国の10倍でライセンス国産品を買うのが当然、いくらかカネが掛かってもかまわないという体質、またFMS調達では米国とまともに交渉せずに、いわれるままにカネを払う。
こういう野放図な装備調達を改革することが目的です。まあ、後者に関してはF-35Aの調達価格を交渉して下げるなど、一定の成果をだしてはいます。また取得に関してプロジェクトチームが開発から廃棄までやるとか、既存の防衛産業以外のメーカーなどのデータベースをつくるか、地味な作業は進んでいます。
装備輸出はその目的達成の一手段に過ぎません。
そもそも論で言えば安倍政権、官邸の長官人事が稚拙だっただけのことです。
上記の目的のため新しい組織を立ち上げたのであれば、技術畑ではなく、行政に精通し、また政治家への根回しができき、また旧来の防衛省の「常識」を打ち破るため、組織内を説得できる政治力を持った人材をトップに据えるべきでした。
技術屋さんに輸出も含めて、それをやれというのは無理な話です。
それに人員も諸外国のカウンターパートに比べて一桁少ない。その上、調達期間が長い。つまり他国が5年で調達しているものを20年かけて調達すれば、その間その担当者が拘束されます。つまりマンパワーが1/4になるわけです。仮に防衛省の調達ペースが平均して諸外国の1/4なら単純計算で約2000名の装備庁の人間は実質500名しかいないことになります。それで、諸外国と同じ結果を出せというのは無理な話です。
ですからぼくは以前から調達強化のためには調達期間の短縮と、例えば陸自の1個師団解体しても人員を調達に回すべきだと主張してきました。はっきり言って装備は旧式で稼働率も低く、弾薬はない、人間もスカスカの10倍に薄めたカルピスのような1個師団があっても災害派遣以外役に立ちません。そうであれば調達能力を強化して防衛予算の適正化を図る方が自衛隊の強化となります。
輸出をするならばC-2とか潜水艦とか、P-1とか華々しい成果を初めから期待しているのは愚かです。安倍首相は名誉欲が異常に肥大しており、歴史に名を残すとことしか考えていないのでしょう。だから威張れるような「大成果」を期待して防衛省に檄を飛ばしてきたのでしょう。首相や官邸の取り巻きも商売を舐めているとしかいいようがありません。
我が国は実質武器輸出の経験がありません。我が国の防衛産業は実質国営企業です。しかも旧ソ連よりも劣っています。ソ連では国内でも競争があったし、輸出もしていましたが。ビジネス、なにそれ美味しいの?というレベルの人たちです。
しかも上記のような武器輸出のは、政府対政府の交渉案件でもありますつまりは外交という要素も絡んできます。
まあ、ゴルフの初心者がグリーンでデビューしていきなりホールインワンを狙うようなものです。そんなことも分からないのは素人ですよ。まあゴルフに熟練しても米大統領の接待ゴルフでグリーン上で転ける人もおりますが。
輸出を本格化するのであれば、まず担当部署の陣容の強化が必要です。外部からの人材登用も必要です。何しろ経験者がいないのですから。
また官邸や内閣府に司令塔が必要です。経産、防衛だけではなく、外務省、文科省や他の省庁も巻き込む話ですから、それらに横串を通すための強い権限が必要です。防衛省だけのマターではありません。ところが先軍政治の「政治将校」ばかりです。
更に防衛産業の意識改革と再編が必要です。川重などその典型例ですが、まったく商売やる気がありません。政府が話を決めて、お膳立て全部してくれたらやりますというスタンスです。これで潜水艦や大型飛行艇が売れると思っているならば頭の中で桜が咲いていることでしょう。こういう寄生虫根性をたたき直さないと防衛産業に「商売」は無理です。そのためには、業界再編も必要です。
こういうことには時間がかかります。数年で成果がでるわけではありません。
ですからぼくは既存旧式装備の販売、あるいは米国などが既に生産を辞めて、まだ我が国及び他国で使用している装備、例えばホークなどの備品の供給や整備を提案してきたわけです。
それと中小企業の活用とデュアルユースです。
海外の見本市に出展しているパビリオンにもっと多くの中小零細企業を出展させるべきです。
どうせ大手メーカーには売る気がありません。
また国内の防衛産業に新規の中小零細企業をどんどん進出させて、新陳代謝を図るべきです。
既にYKKや帝人などはデュアルユースの製品で世界の軍事市場で大きなシェアを占めています。
こういうデュアルユース製品の軍事市場での輸出を促進する政策と取るべきです。
振興すべきは「防衛産業」であって、「防衛産業の既存の企業」ではありません。
更に申せば、安倍政権は必要かどうかも、防衛予算上無理がないかどうかも吟味せず、グローバルホーク、AAV7、オスプレイなどの高価なアメリカ製兵器を政治導入しました。
これまでの間接的な証拠を見る限り、内局にこの「官邸の最高ベルの意向」を忖度する、あるいは尻馬にのって出世を図る人たちがおりました。彼らはこれらの高価なオモチャを調達するために、他の装備調達の予算を削減する必要がありました。ですから、安さだけを優先して装備選定を行いました。
その犠牲になったのは陸自のUH-Xでした。本命の川重とエアバスヘリのジョインとベンチャーで陸自だけはなく、この汎用ヘリを今後千機以上世界の軍民市場に売っていく予定でした。当然川重には技術の向上も図れました。恐らくは第二のBK117となって、世界で売れたことでしょう。また同時に自動的に富士重工が排除されて弱小ヘリメーカー3社体制から2社になり調達の効率化が進んだことでしょう。
ところが安いからと富士重工とベルのUH-412EPI改良案が採用されました。実質UH-1Jの双発化ですから殆ど開発費は必要なく、多くの部品も流用できるので初期費用も安い。ですが、既に旧式化が甚だしく、近代化箇所もトランスミッションだけ。それも国内ではありません。つまり技術移転もありません。そして発展性もないので、たいした機数が海外で売れるわけもありません。富士重工は150機は売るといっていますが、かなり楽観的な数字でしょう。しかもUH-412シリーズはカナダやインドネシアでも売っていますから、同じ陣営での価格競争も起こります。ベルがどれだけ親身に営業してくれるでしょうか。
同様に海自のUH-Xでも海自会議で決定した路線を覆して、下克上を起こした調達部門と、内局の忖度官僚が目的に適さないが、値段は安いという理由だけでSH-60Kを押し、これに異議を唱えた海幕長が逆に処罰されました。
つまり安倍政権は自ら、せっかくの「大成果」をみすみす潰したことになります。恐らく安倍首相にはその認識すらないでしょう。ですからまだ潜水艦だ、飛行艇だと白昼夢を見ているようです。
さて、こうやって見ると産経新聞が批判すべきは防衛装備庁よりも、むしろ安倍首相、安倍政権であります。
その気位が産経新聞にはあるのでしょうか。それとも悪いのは不忠ものの装備庁であり、安倍首相、安倍政権には一点の非もないと主張をするのでしょうか。
■今日の市ヶ谷の噂■
陸幕は概算要求で12.7ミリ、7.62ミリ機銃だけではなく、MINIMIも調達を取りやめ。
補正予算でもMINIMIを調達しない模様で、いよいよ住友重機を見限るとの噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2017年11月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。