9月24日実施された独連邦議会(下院)選挙の投票結果を受け、第1党となったメルケル首相の与党「キリスト教民主、社会同盟」(CDU・CSU)と野党の「自由民主党」(FDP)と「同盟90/緑の党」の3党の間で連立交渉(3党のカラー、黒・黄・緑がジャマイカの国旗と同じことから、通称ジャマイカ連合と呼ばれる)が目下、急テンポで進められている。
3党間の連立交渉は今月16日には一応終了するとみられている。CSUのゼーホーファー党首は、「連立交渉はゴールに向かって最後の直線コースに入った」と述べているが、「同盟90/緑の党」関係者は11日、「中途半端な妥協はできない。新しい選挙に臨む決意はある。連立政権はわが党よりCDU・CSUやFDPの方が必要としている」と指摘し、楽観的な見通しに釘を刺している。
ジャマイカ連立政権は発足するか、それとも連立交渉は暗礁に乗り出し、第4次メルケル政権の誕生が遅れ、ドイツ政界に空白状況が生じるか。以下、ドイツの連立交渉の現状をまとめてみた。
ジャマイカ連立交渉で主要な争点は2点だ。難民対策と環境保護問題だ。難民問題では、メルケル首相が10月8日、ベルリンの与党CDU本部で姉妹政党でバイエルン州地方政党のCSUと首脳会談を開き、ホルスト・ゼーホーファーCSU党首から要求があった“難民受け入れ最上限の設定問題”で妥協が成立し、「人道的理由による難民受け入れを年間20万人以内に抑えることになった」と公表したばかりだ。
メルケル首相は難民受け入れ最上限という表現こそ避けたが、実質的には年間20万人は最上限の設定を意味する。「同盟90/緑の党」は難民受け入れの最上限設定には反対してきたが、2015年の難民殺到を受け、難民受け入れで制限は止むを得ない、といったコンセンサスが国民の間で生まれてきているだけに、メルケル首相の決定に表立って反対できない。
問題は環境保護問題だ。自由貿易の促進を最優先課題とするCDU・CSUとFDPに対し、環境保護を党の最大課題に掲げる「同盟90/緑の党」とでは基本的立場の相違がある。
ドイツは2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で40%削減することを目標としているが、FDPはその目標値に疑問を呈してきた。一方、「同盟90/緑の党」は党の中心的課題だけに、他の政党と妥協したり、譲歩することはできない。
「同盟90/緑の党」のシモーネ・ペーター党首は、「2020年までの温室ガス排出量の削減目標は政治的駆け引きの対象ではない。科学的に事実に基づき設置された目標と考えるべきだ」と強調し、環境対策の強化、CO2排出量が多い20カ所の炭鉱閉鎖などをこれまで主張してきた。
「同盟90/緑の党」の連立交渉代表、ユルゲン・トリッティン氏(シュレーダー政権下で環境・自然保護・原子力安全相を務めた)は日刊紙ターゲスシュピーゲルとのインタビューの中で、「党大会が明日開催されれば、わが党の10点プログラムは連立交渉では全く受け入れられていないと報告せざるを得ないだろう」と不満を吐露する一方、「連立交渉はまだ終わっていない。これからも継続される」と述べ、連立交渉から離脱する考えはないことを示唆している。ペーター党首も、「合意までまだ長いプロセスが控えている」と主張している、といった具合だ。
一方、「同盟90/緑の党」のジェム・オズデミル共同党首は今月6日のメディアとのインタビューの中で、オイル・ディ―ゼル車を2030年までに廃止する要求を引き下げ、「廃止期限の設置」に反対してきたCSUやFDPに譲歩し、段階的に廃止し、電気自動車を促進していく方向で妥協したと明らかにしている。
要するに、「同盟90/緑の党」は連立交渉では最大限の要求をテーブルに出し、相手側の出方を伺う、といった戦略だろう。独メディアによると、「同盟90/緑の党」は連立政権に参加する場合、環境、農業、交通関連の閣僚ポストを希望しているという。ちなみに、環境問題ではメルケル首相は環境保護の強化と経済的利益の維持といった現実的なスタンスを掲げている。
第2党の社会民主党(SPD)が早々と野党体制に入っているため、ジャマイカ連立交渉が暗礁に乗り上げた場合、第4次メルケル政権が発足できない、といった政治の空白が生まれてくる。特に、初めて連邦議会に92議席を獲得した極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が政界の空白に乗じ、連邦議会を混乱に陥れる危険性も考えられる。
CDU・CSU、FDP、そして 「同盟90/緑の党」は、連立交渉を破綻させれば、その後の政治的混乱の責任を追及されるだけに、ジャマイカ政権の発足に向け努力する以外に他の選択肢がないのが現実だ。